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Yuki Nekomiya

Chocobo [Mana]

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小説: Mirage Family (3)

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漆黒5.0ネタバレしかないので、未クリアの方は閲覧注意。
あと、救いがどこにもない話なので、そういうのが苦手な方もご注意ください。


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 次に会った『彼女』は、ライト村の娘だった。数人の兵を引き連れ、迎えに行った自分を、潮風が吹き抜けるなだらかな丘陵で待ち受けていた。
「ホントに来たんだ……」
 水晶色の双眸をまんまるにさせて、幼い彼女が呆然と呟く。
「……不服か」
「あ、えっと、嫌な気持ちになったならごめんなさい。村長さんには、ユールモアの人が迎えに来るって言われたけど、絶対嘘だと思ってて……それで、ちょっとびっくりしたというか……」
「人買いの口実だと?」
「うん。……あっ、ごめんなさい」
 子供らしい率直さで頷いた彼女に、思わず薄い苦笑が浮かぶ。
 彼女の両親が既に亡く、村長の養女という名目で養われ、働かされている事は調べがついている。聡い彼女は、身内がいない自分が人買いに売るには都合が良いと察していたのだろう。村長が告げたという「ユールモアからの迎え」も、辛い現実を直接突きつけないための優しい嘘だと思っていたらしい。
 もっとも、彼女の推測はあながち間違いとも言えない。
 ユールモアからライト村には、彼女の身柄と引き換えに多額の謝礼金が渡されているはずだ。金の代わりに彼女をユールモアへと連れ去るという事実だけ見れば、やっていることは人買いとほぼ同じだろう。違いなど、そこにもっともらしい大義名分があるかどうかに過ぎない。
「別れは済ませたか?」
「うん、大丈夫。おじさん、顔は怖いけどいい人なんだね」
「……さて、な」
 物おじしない彼女の言葉に直接の返答は避けて、あいまいに言葉を濁す。彼女を日常から引き剥がし、戦場へと投入する自分が『いい人』であるはずがない。だが、それをここで正直に告げて怯えられても、連れてゆく手間が増えるだけだ。
「では、行こうか」
 代わりに手を差し出すと、小さくて柔らかい手がすっぽりとおさまった。
「はい。……えっと、これからよろしくお願いします」
 見上げる彼女の、屈託のない笑みは生命の輝きにあふれているようで、今までのだれとも違う気がした。



 明るく、活発な娘だった。天真爛漫でお転婆で、いたずら好きで。かつての『妹』とも『娘』ともまったく違う少女。けれど、その愚かしいまでの優しさだけは、変わらず同じだった。
(今度こそ)
 持てる限りの情熱を、彼女に注ぎ込んだ。基礎となる体術はもとより、罪喰いと対峙した時の心構え、戦い方。身を護るために暗殺者の退け方、毒物の見分け方から、野盗のような少人数を相手取った場合の立ち回り方。人ならぬ魔獣相手の戦闘も含め、ありとあらゆる場面を想定した戦い方を教えた。
(今度こそ)
 教えたのは個人での戦い方ばかりではない。大軍を指揮する場合の注意点から、兵站の概念、損害の見極めなどなど。味方と逸れた時に困らぬよう、野草の見分け方や調理法など、独力で生きていける知恵も叩き込んだ。
(今度こそ)
 彼女の指揮する軍が弱兵では意味がない。大国ゆえの装備の良さに胡坐をかいていたユールモア軍を、いい機会とばかりに鍛えなおした。彼女が『発見』されるまでの間に、父の後を継いで将軍となっていたので、立場に問題はない。実戦となると何かとこれみよがしに口出ししたがる元首も、日ごろの地味な訓練にはまったく興味がないらしく、おかげで存分に鍛えなおすことができた。戦場での華やかな戦果にしか目を向けない、明らかなその態度に苛立ちはあるが、邪魔が入らないということはそれはそれで都合がよかった。
 ……それから、不要だと思われそうな知識も。
 上流階級の言葉遣いから食事の仕方、音楽や絵画の鑑賞から、果てはダンスまで。生きていくのに直接必要ではない分野の知識も、金を惜しまず講師を雇って彼女につけさせた。もっとも、ダンスの練習だけは本人が恥ずかしがって逃げ出したため、結局身にはつかなかったのだが。
 「将軍の養女として恥ずかしくないように」との建前で、けれどいずれ年頃の娘となったときのためだった。誰のもとに嫁いでも困らないように、好いた男の腕の中へ引け目を感じることなく飛び込めるように、戦う以外で生きていくための武器がひとつでも増えるように。
 今度こそ、彼女が幸せになれるように。
 当たり前に年を重ねて、当たり前に誰かと恋に落ちて、当たり前に誰かの妻となって母となって、そんな、特別でない『普通』の幸せを、彼女が得られるように。
 それだけが、望みだった。そのためだけに生きてきた。
 だから、年頃となった『彼女』へ求婚する青年が現れたときは、報われたような気がしたのだ。自分の生きてきた道は間違いではなかった、これでよかったのだと心の底から安堵した。肝心の彼女自身は乗り気ではないようで返答を避けたこと、また、相手がユールモアの軍人だということが気がかりではあったが、彼女の幸せの前には些細な事だと意識から追いやってしまった。今はまだ突然のことに戸惑っているだけで、いずれは青年の愛に応え、幸せになるのだろうと、そう思った。



 ……功を焦ったのは、青年のほうだ。将軍の養女であり『光の巫女』でもある彼女を得ようとするのなら、その立場に相応しい功を上げねばならないという思い込みに駆られたのだろう。あるいは、周囲のやっかみに、追い込まれたのかもしれない。
 いずれにせよ、人間側のそうした事情など、罪喰いたちが考慮するはずもない。無理な突撃を重ねた挙句に青年の部隊は壊滅、彼自身の生存も絶望視される状況となった。
(そんなものか)
 報告を聞いたときに抱いた感想は、その程度だ。失われた人命は多く、軍としてはそれなりに痛手を被った形となるが、仕方のないことだ。『娘』を託すには力量が不足していたということで、彼女が巻き込まれる前で良かったとさえ思った。
 だから、冷静に撤退を指示する彼女になんの疑問も抱かず――引き上げる軍の中に彼女の姿がないことに気づいた時点でもう、すでに手遅れとなっていた。
「……この、バカ娘が……!」
「あはは、養父(とう)さんにそう怒られるの、久々かもー」
 むせ返るほど強く立ち込める血の匂いと、うっすら漂う光の残滓の中で、場違いに明るい笑い声が響く。
「まったく……。なぜ、一人で戻った。なぜ儂を頼らなかった」
「だって、これは、わたしの我儘だったから」
 力なく横たわり、血に濡れた手の中に小さな徽章を握りしめて、それでも彼女はわらう。快活に、軽やかに。その声音には痛みも死への怯えもなく、あまりにも「いつも通り」すぎた。
「あの人の気持ちに、結局応えることはできなかったけど。でも、わたしのために死んでしまったあの人のために、せめて、遺品を家族に届けてあげるのが、わたしにできる誠意かなぁって」
 周囲には自分と彼女以外に生きているものの気配がない、完全な静寂だ。にも関わらず、普段と変わらぬ態度を貫く彼女の姿は、見る者が居ればある種異様だと怯えたかもしれない。
「……それで、この様か」
 けれども、自分にはわかる。これは、彼女なりの、精一杯の優しさと強がりなのだ。遺される者への優しさと、置いてゆく恐怖を見せない強がり。だから、自分も普段通りの小言を連ねながら、起き上がることすらできない彼女の身体を抱き上げる。片腕と片足を失い、加えて大量の血を失っている彼女の身体は、ひどく軽く頼りなく……家族として歩み始めた幼いころを、否応なしに思い起こさせた。あっという間に大きくなり、強くなり、けれども最期まで庇護すべき『娘』だ。
「うん。ごめんなさい。もうちょっと、いけると思ったんだけどなぁ」
「己が力を過信するからだ。……戻ったら、鍛えなおしてやるから覚悟しておけ」
「えー……ちょっとは手加減してほしいー」
(『過信』……など)
 どの口がいうのか。過信していたというのなら、むしろ彼女ではなく自分のほうだ。これだけ教えたのだから、これだけ鍛えたのだから大丈夫だと思ってしまった。今度こそと誓い、決意し、それでも変わらぬ己の愚かさと見通しの甘さに、反吐が出そうだ。
 自分への呪詛を撒き散らせば自分の気が済むかもしれないが、それだけだ。逝く彼女を気遣わせ、悔いを残させることになるかもしれない。ならば――自分も、いつも通りに。
 最後まで、茶番を演じてみせよう。
「……眠いなら、目を閉じておけ。家に着いたら起こしてやろう」
 ゆっくりと歩を進める振動が眠りを誘うのか。……否、もう単純に命数が尽きつつあるのだろう。薄く笑みを浮かべ、最期まで光景を焼き付けるかのように懸命に周囲の光景を眺めている彼女へと、静かに告げる。
「……ん。ありがと、養父さん」
「うむ」
 それきり、応じる声はない。腕の中の娘がそっと瞼を閉ざし、くたりと力を抜くのがわかった。
(……逝った、か)
 これからやるべきことは多い。娘を埋葬し、新しい『彼女』を発見し保護し養育して、それから、こんど、こそ。
「……」
 ふと、足が止まる。
 今度こそ。幸せになってほしい、その願いに偽りはない。けれども、その手段はこれで正しいのか、僅かだが疑念が生じてしまった。もっとほかの道はないのか。もっともっと何か別の何か素晴らしい、確実に彼女が幸せになれるような、そんな奇跡のような何かが。天命を負わされただけの、ただの優しい少女が幸せに暮らせるような、そんな報いがあってしかるべきではないのか。
「……今更、だな」
 自分がもっと若かったなら、別のやり方を模索できたかもしれない。けれど、壮年を通り越し老年の域に差し掛かりつつある今の自分には、今更他のかかわり方を手探りで探す時間など無い。否応なしに戦いに巻き込まれる彼女へせめて戦う術(すべ)を与える、それだけが家族としての絆だった。
 だから、きっと、次も戦い方を教えるのだろう。
 ――そうして、また喪うのかもしれない、と初めて思った。
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