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週1時間の物語 144時間目「遠回りしてきた道」前編深夜を回って昼間の喧騒が嘘のように静まり返ったドライボーン。
ゴールデンバザーから壺を持ち帰った俺をランベルタン教授は大いに喜んで迎えた。
「これだ!私が形容した通り、まさにただのゴミ!」教授はこれ以上面白いことはないといった感じにくくくっと笑うと私が差し出した壺を受け取った。
「これに錬金学シーラントを塗れば・・・陶器の壺が汚染クリスタル・コンテナ・デバイスに早変わり!」と言いながらしばらく上機嫌でシーラントを塗っていたが唐突に「おっとアブナイ!」と手を滑らせて壺を落とすふりをした。
最早どこまでが意図的なのか判別がつかない。深夜遅くに起きているのでおかしなギアが入っているのか、それとも学者とはえてしてこういう人種なのか。
「さあ、できた。これに汚染クリスタルを格納すれば被曝することはない。まあ、それを格納するまでは有害なエネルギーに曝され放題なわけだが」
教授の紹介で今度はハイブリッジの方へ向かった。そこには弟子がおりエーテルの流れをモニタリングしているのだという。彼ならばどこで汚染クリスタルを取ったらいいか熟知しており、アドバイスをくれるのだという。
面倒なおつかいに辟易しながらもアーリマンの背中に乗る俺は美しい夜空に目向ける余裕があった。
それが遥か宇宙を隔てた遠くで輝く天体の光なのか、はたまた夜空を覆う天蓋の窓を通して見える灯りなのか俺には知るすべがないが、とにかくいま目の前にある軽微なおつかいを離れた遠い世界を旅しているようなそんな気分になった。
「何度言えばわかるんだ?俺は自殺しようってんじゃない。科学的測定を行っているのだよ」そんな言葉で我に返った。ハイブリッジから張り出した木造の足場みたいなところに立つララフェルのハハサコは橋下の奈落の一歩手前に立って、なるほど身を投げるつもりに見えなくもない。
そんな彼にコンテナ・デバイスを見せると俺が教授の客人であることがすぐに伝わり、手を貸してくれることになった。
「いいタイミングで来たな!ちょうど私も汚染クリスタルを採取しようとしていたところだ」
その言葉に反してハハサコは俺にクリスタルを採取する道具を貸してくれただけで、代わりにクリスタルを採取してやるつもりも、ついてきて採取方法を教えてやるつもりもないようだった。ただ、”燃える壁”と呼ばれる場所の深部に目指す純度の高い汚染クリスタルがあることを教えてくれた。
そもそも学者先生たちがそんな危険な物質を自分で採取するのだろうか?おおかたドライボーンで貧民を雇って代行させているのだろう。汚染クリスタルの研究には最適な場所というわけだ。
”燃える壁”はその名に違わず燃えるような汚染クリスタルが四方から伸びてきていた。
周りを取り囲む有害物質を掻い潜りながら深部へと進む。
今のところ数字で見えるステータスの変化はないようだった。
数年後の健康被害を引き起こす程度のものかもしれないし、ハイデリンの加護を受けた俺にはハナから汚染クリスタルの力など及ばないのかもしれない。とにかく俺にはわからない。
わからないが、そこは美しかった。
柔らかく発光するオレンジや青が子供の頃に見た幻燈を思わせて心躍る。深部に向かうにつれ幻惑された俺は夢の中に入り込んだような心持で前に進んだ。
今思えば汚染クリスタルに体内のエーテルの流れを歪められていたのかもしれない。
深部から濃度の高い汚染クリスタルをコンテナ・デバイスに入れてハイブリッジに持ち帰った時には少し明るくなり始めた空に朝日のオレンジが染み出して広がり始めていた。
俺は一路ドライボーンへ走った。
(つづく)