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Manjiro Hanada

Alexander [Gaia]

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【架空サブクエ】黒衣森の霊銀道士 第3話

Öffentlich
※架空のサブクエスト・エピソード妄想。二次創作小説です。
※新生エオルゼア(パッチ2.0)の6年前の話。
※配達士クエストのネタバレあり。
※捏造設定多めです。

第1話
第2話
第3話
第4話
第5話(終)

   ◇

カミルがその噂を聞いたのは、東ザナラーンの実家を出立してから数日後。黒衣森の手前の、峠に差し掛かった時だった。
木陰の休憩所で足を休めていたところに、ララフェルの夫婦が通りかかった。妻の方は、明らかに具合の悪そうな顔色をしていて、夫が励ましながら身体を支えている。
見過ごしてもおけず、木陰のベンチを譲って、近くの井戸で水を汲んできて差し出すと、夫婦は「礼代わりに」と、ある道士についての話を聞かせてくれた。

夫婦の言うには――
最近、黒衣森の南の外れに、万病を治癒する仮面の道士が現れた。
『霊銀道士』と名乗るその道士は、二つ名の示すとおり、ミスリルを捧げる事で森の精霊から力を得て、人々からあらゆる病魔を取り除くのだという。

妻の病を治して貰いに行くのだ、とララフェルの夫は、切実な表情で黒衣森に続く街道を見つめた。
彼らの引く荷車には、搔き集められるだけ集めたという、ミスリル製の兜やら、インゴットやらが積まれていた。

万病を治癒とは、いくら何でも誇大広告ではないかと、カミルも流石に疑ったが、ミスリルを媒介にするという不可思議な魔法には、興味を覚えた。ここからグリダニアに行くなら、どのみち南部森林は通り道である。
霊銀道士の奇跡なるものを確かめるべく、カミルは夫婦の荷物持ちを買って出て、道中を共にする事になった。

   ◇

噂の霊銀道士は、エオルゼア各地を放浪しており、基本はテント暮らしであるらしい。
道士が滞在しているという場所に到着してみれば、森の少し開けた辺りに、大きめのテントが組まれ、その周りに人だかりが出来ていた。治癒を希望する患者と、道士を崇拝する信徒と、単なる野次馬も大分集まっているようだ。
自分は見学者だから、と夫婦に挨拶をして別れ、カミルは昂揚した人々の群れに混ざる。
程なく、テントの中から道士が現れた。

その男は灰色の法衣を着込んで、話に聞いたとおり、顔を仮面で覆っていた。この辺りでは、鬼哭隊や神勇隊も好んで仮面を被るため、皆さほど違和感を抱いていないようだ。
同じく仮面を被り、ローブに身を包んだ助手達が、一抱えもある大振りの壺を運んでくる。
ゆったりとした足取りで、皆の前に進み出た道士は、患者達の列の先頭に並んでいた老人に向けて、厳かな声をかけた。

「では、貴方から……捧げもののミスリルを、こちらに」
老人は命じられるがまま、両腕いっぱいに抱えたミスリルのインゴットを、壺の中へがらがらと投げ入れる。

……どこかからか、囁くような声が聞こえた。

周囲では人々がざわめいているのに、その声は、奇妙なほど鮮明に耳へと届いた。
不可解な感覚に、カミルは眉をひそめる。

――ミスリルちょうだい!

壺の中からだろうか?確かに、そう訴える声がする。

――ミスリルちょうだい!

声は同じ言葉を繰り返す。
無邪気な子供の声にも聞こえるが、どこか不安に駆られる響きだ。周りの人間は、気にならないのだろうか?

「よろしい。治療を始めましょう」
落ち着かない気分で動向を見守るカミルの前で、道士がそう告げて、呪文の詠唱を始めた。

「あれっ……」
紡がれる言語を耳にしたカミルは、思わず小さく声を上げる。
黒衣森の道士と言うからには、てっきりこの近辺で盛んな、幻術を使いこなすのだと思っていたのだが、違う。
幻術には詳しくないが、これはそうではないと分かる。何故ならこの呪文は、祖母や母がよく使う、アラミゴ流のまじないだからだ。
しかも、最初は確かに、治療に関する呪文に近かったのに、途中から所々、失せ物探しのおまじないだの、興奮した家畜を宥める歌だのが混ざり始めた。要するにこれは――でたらめだ。治癒魔法でも何でもない。
カミルは、唖然とした。

「こっ、このような事が……!?」
道士の前で項垂れていた老人が、不意に目を輝かせる。
「身体の痛みが、嘘のように治まりました!まさに奇跡です、道士様!一体何とお礼を申し上げれば……」
「良いのです」
その場に跪き、神への祈りを捧げるような姿勢を取る患者に対して、やはり道士は、厳粛な態度を崩さない。
「では、次の方、前へ」
道士が周囲の見物客を見渡し、その中で一瞬、カミルと視線がかち合う。

途端、眩暈に似た感覚がカミルを襲った。
彼は思わず額を押さえる。目を閉ざし、どうにか両足を踏ん張り――

――突如として頭の中に、見覚えのない景色が広がった。

ハイランダーの男が一人、地べたに座り込んでいた。周囲には木々が生い茂り……黒衣森のどこかだろうか?苔や蔦にまみれた、古めかしい石造りの建造物も見える。

「腹が減ったなあ」
ぼそりと、男は呟く。
「金目の物か、せめて、食えそうな物でもありゃあ良かったのに。見つけたのは、この壺だけか……」
と、男は傍らに据えた大振りの壺を傾け、中身が空である事を確認して、はあ、と溜息をついた。
道士の助手が掲げていた、あの壺だ。

それからしばらくの間、男は沈思していたが、やがて徐に、ベルトに挿していた短剣を手に取る。
ミスリル製の、装飾がちりばめられた見事な短剣だ。柄の部分に、剣を携えたグリフォンが彫られている。かつて、アラミゴの国旗にも描かれていた意匠である。
「こいつを売れば……いくらかにはなるかな。今更、家宝なんざ持ってても」
男は低く、笑い声を漏らした。
自嘲気味に笑い続けた挙句、突然彼は苛立ちも露わに、地面に短剣を叩きつける。
柄の一部が、硬い石にでも当たったのか、欠けて弾け飛ぶ。それはころりと、壺の口の中に転がり込んだ。

「何が森の意思だッ、畜生!こっちはアラミゴの王家に仕えた身だぞ……なんだって俺がこんな……こんな所で……!」
慟哭に近い声を絞り出し、拳で何度か地面を叩く。その声は森に吸い込まれ、残響も消え、再び静寂が降りた。

新たな声が響いたのは、その時だ。

――ミスリルちょうだい!

俯いていた男が顔を上げ、不審げに眉をひそめる。

――ミスリルちょうだい!

「……誰だ?」
彼は周囲を見渡し、誰何するも、声の主は姿を見せず、応答もない。ただ、同じ言葉が繰り返されるばかりである。

不気味さに息を呑む彼の視線は、ゆっくりと下りてゆき、自分の足元に転がる壺へと注がれた。
先程、確かに底まで覗き込んで、空だと放り出した壺の中から、三本指のついた手と、その先の腕が覗いている。
プレートアーマーでも着込んだような、金属製の腕である。黒ずんで錆だらけで、今にも崩壊しそうな有り様だ。

「う、うわっ!?」
男は腰を抜かして後退った。
手は地面の上で指先を蠢かせ、投げ出されたミスリルの短剣へと辿り着くと、ずるずると壺の中へ戻って行った。

――ミスリル――ちょう――だい――

壺の中身の『何か』は、それきり沈黙し、あとには震える男だけが残される。

そこで唐突に、カミルの視界はぶつりと暗転した。

間を置かず、歌劇の幕が上がるかのように、再び見知らぬ光景が広がる。
先程と同じ男が、宿の一室と思われる場所で、何人かの男達と対面していた。いずれの人物も、アラミゴ系のヒューランに見える。

男は傍らに据えた大振りの壺を、軽く叩いてみせた。
「……最初にこの壺に、ミスリルを『喰わせて』やった時は、俺も大変な目に遭ったのさ」
「どういう事です?」
少しばかり不審げに、相対する男の一人が質す。

「すぐには信じられんだろうが、この壺はな。ミスリルを対価として、その時抱えてる強い感情を、一時的に麻痺させてくるらしい。飢えた人間からは飢餓感を。不安を抱く者からは不安を奪う。
だが、奪われるのはほんの一時の事だし、飢えを感じなくなったからと言って、腹が膨れる訳じゃない。
効果としては、三日か四日ってところか……俺はあの時、酷く飢えてたからな。当然、飢餓感を麻痺させられた。何も口にしていないのに、食う気だけ失せて、危うく死ぬところだったぜ」
男はけらけらと笑い、それを囲む面々は、戸惑った様子で顔を見合わせた。

「それが本当だとして、一体その壺は、何だっていうんですか?そんな不気味な代物の、何が儲け話に繋がるのか、さっぱり――」
「壺の中にいる『ミスリル喰い』の正体が何かは、俺も知ったこっちゃない。魔物の一種か、もっと厄介なものかもな。良いから最後まで聞けよ。どうせお前らも食い詰めて、野盗の真似事をやってる身だろ?同じ部隊だったよしみだ、一儲けさせてやろうって言ってんのさ……」

会話は続いていたが、男の声は段々と遠くなり始めた。景色が歪み、薄れ、空間の上下も分からない中で、またも眩暈が止まらなくなり――

   ◇

「うひゃあっ」
悲鳴と共に、カミルは跳ね起きた。
自分の鼓動の音が、煩いくらいに耳の奥で響いている。
額の汗を拭って、辺りを見回す。そこは薄暗い室内で、彼は簡易なベッドの上に寝かされていた。
布張りの壁と天井が、手の届く程の距離にある。テントの中だろうか。

今の光景は――夢?それにしては、あまりにも鮮明だった。男の声も、錆びきった金属の手指も、まだ耳と目に焼き付いている。

「おや、目が覚めたか」
間近から、耳に残るそれと同じ声色で呼びかけられ、ぎくりと背が強張る。
振り仰げば佇んでいたのは、あの仮面の道士だった。
夢の中とは随分口調が異なり、いくらか歳も取っているように思えるが……間違いない。同じ人物だ。仮面で顔を覆い、法衣で肌と髪の全てを隠しているが、彼はハイランダーだ。

「えっと……」
何と口を利いたものか、カミルが迷っていると、壺を抱えた助手が傍にやって来る。
「お前は、テントの外で見物をしていて、急に気を失ってしまったのだよ」
と、助手が状況を説明する。やはりここは、道士達の控えの間代わりの、テントの中らしい。
「きっと奇跡を目の当たりにした感動で、興奮し過ぎたのだろう。年若いのに、道士様の慈悲の行脚に興味を持つとは感心だが……少し休んで行くといい」
助手はそう言ってくれたが、とても休憩など出来る気分ではなかった。目の前には、例の壺があるのだ。

「どっ、道士さん、あんた」
混乱しきった思考を取りまとめるより先に、カミルはその場に立ち上がり、口走っていた。
「アラミゴ人だろ。んで、道士でも魔術師でもない。さっきの『奇跡』、自分の力で起こした訳じゃねえな!」
途端に、助手がぎょっとして身構えた。道士も、仮面の奥から鋭くカミルを睨みつける。
「なんだと?」

――やっちまった。

カミルはちらりと、自身の行動を後悔したが、言ってしまったものは仕方がない。彼は更に、壺を指差して声を張り上げた。
「その、壺!中に何が入ってんだよ!ヤバいもんじゃないのか!?」

「……何を愚かな事を。この壺は、捧げ物のミスリルを入れるだけの容器だ。今はミスリルも取り出してしまって、空だよ」
助手が壺を傾け、中を見せようとしたが、カミルは首を振ってそれを否定する。
「それが空だってんなら……」

おかしな夢のせいか、ぼんやりしていた頭が、だんだんと回転し始めていた。
どう考えても、まずい事件に首を突っ込んでしまっている。
今自分が取るべき最善の選択は、「ごめんなさい寝惚けて変なことを言いました」と謝罪して、平和にテントを出て行き、黒衣森を警護する組織に通報する事だ。
「道士を騙って、でたらめな呪文で活動している者がいる」とでも訴えれば良い。自分でも分かったのだから、本物の道士や、魔法の心得のある者が検証すれば、すぐにぼろが出るだろう。あの壺も、プロの手によって調べられるかもしれない。

……しかし現段階で、無事にテントから出して貰えるだろうか?
そういえば、肩に掛けていたはずの鞄はどこに行ったのだろう。こつこつ貯めた旅費も、祖母に貰った紹介状も、あの中だというのに。
一応の護身用に、ケーンを一振りと、果物くらいしか切れないナイフを身につけていたはずだが、それも見当たらない。無事なのは、懐に忍ばせていた護符一枚きりだ。

――そうだ、護符。

「そっ、その壺が空だってんなら!……このお守りを放り込んでも平気だよな?」
カミルは懐から護符を取り出して、道士に向けて掲げてみせた。
道士達に、今度こそ明らかな動揺が走る。
「このお守りがあれば、何だっけ、『妖異』!アレでも魔物でも追っ払えるって、ばあちゃんが言ってたんだ。壺の中にそういうヤベーのが入ってないってんなら、確かめさせてよ!」

両者は硬直し、少しの間睨み合いが続いた。
カミルは次の一手を考える。
はっきり言って、次の手などない。向こうが固まっている隙に、とりあえず逃げ出すくらいしか思い浮かばない。言い逃げという奴だ。

「やれやれ。一体どこで、それだけの事を調べ上げたのか……」
不意に独白めいた調子で、道士が呟いた。
思案していたカミルは顔を上げ、彼を注視する。そんな彼を悠然と指し示して、道士は告げた。
「放っておくのも面倒だ、捕らえろ」

――やはりここは、逃げるしかなさそうだ。

   ◇

「……で、あの小川の所まで逃げて来たって訳か。結構な無茶してんなあ」
カミルが話を一区切りさせたので、俺はそう引き継いで、冷めたコーヒーの残りを飲み干した。

「何と言うか、正直……どこから呑み込めば良いのか分からねえな。偽の道士に、感情を麻痺させる壺の中の化け物。で、お前はそいつらの正体を、夢の中で『覗き見た』って?」
イウェインは頭を抱えている。
「ラノシアの幻影諸島に、似たような壺の化け物の噂があるぜェ。そいつは、エリクサーをねだってくるって話だがよ」
「ああ、あの辺の漁師から聞いたことあるなそれ。ただの怪談かと思ってたが」
面白がっている様子のランドゥネルに、俺は首を傾げてみせた。

「その、道士を騙る連中ってのは――もしかして、アラミゴで“廃王”テオドリックに仕えてた奴らの残党じゃないか?冒険者になってから、ザナラーンでやりあった事がある」
何を思い出したのか、イウェインが憤るように短い息を吐く。
「ひっでえ奴らだよ。同じアラミゴ人の、それも難民の女子供から、奪うわ殺すわ。難民は正規軍に訴えづらいからって……いや、すまん。お前にするべき話じゃねえな」

項垂れてしまったカミルを見て、イウェインがすぐに詫びたが、カミルは首を横に振って応じる。
「ううん。あいつらが酷いのは、おれも知ってる」
その眼差しに、どこか思いつめたような光が射して見えるのが気になった。
「同じアラミゴ人だ。何か悪い事しようとしてるなら……おれが止めなきゃ」

「そう気負うこたぁない。何も、全アラミゴの運命に君が責任取る必要はないだろ」
「そりゃそうだけど」
「あとな、気をつけなきゃならんのは」
軽く肩を叩いてやってから、俺は続ける。
「グリダニアも、頭の柔らかな人間ばかりじゃないって所だ。この件、最終的には鬼哭隊なり、神勇隊なりを頼るべきなんだろうが、さて、どうするかね……」

心配なのは、カミルをこれ以上深入りさせる事で、余計な疑惑をかけられはしないか、という点である。
ハイランダーへの偏見は根強い。道士の呪文がでたらめだと見抜いた、くらいまでは良いが、不可解な白昼夢や、壺から聞こえた声の話をまるっと伝えたとして、信用されるかどうか。

俺にしても、実際に彼が追われている所を助けていなければ、荒唐無稽なホラ話とでも思ったかもしれない。彼が『視た』ものが一体何なのか――ただの白昼夢なのか、無意識に発動した魔法なのか――見当もつかず、代わって説明もしてやれない。

「おかしな夢を見る人間が増えてるって話は、最近聞いたぞ」
と、イウェインが情報通な所を披露する。
「何だったかな……他人の過去を言い当てただとか、空からの大災害のビジョンを、何人かが一斉に幻視したとか」

「空からの大災害ィ?何なんだ、星でも降ってくるってのか?」
「……知らねえよランドゥネル、俺は見てないんだし。とにかく、どこぞのお偉いさんが、これは第七霊災回避のヒントになるとまで言い出して、秘密裡に夢を見た奴を集めてるって噂だ」
「第七霊災?えらく話の規模がでかくなったな」

そう言及されて思い返せば、先日、グリダニアで釣りの合間にめくっていた“週刊レイヴン”にも、似たような記事が載っていた気がする。ゴシップ誌の言う事だからと、話半分で読み流してしまっていたが。

ゴシップネタはともかく、カミルの『視た』ものが、単なる夢まぼろしとは思えない。それで俺達の見解は一致した。何しろ、当の霊銀道士の反応からして、カミルの指摘を大筋で認めているも同然なのだ。
患者にかけていた呪文の内容が、効果のないものだったというのも確かな話だろう。
壺に潜む『ミスリル喰い』なる存在が、どういう代物であれ、捨て置くには剣呑な事態と言える。

問題は、これからどう行動を起こすかだ。

「今すぐカチコミと行こうぜ!」
ランドゥネルはそう主張した。
「ああいう連中は、長くはその場に留まらねェ。噂が広まって客が集まって、皆が騙されたと分かって、悪評に変わって、お上が動き出す頃には、しれっと高飛びしてんのさァ。そうして、名前ややり口を変えてまた別の場所で稼ぐ。……俺らの誰も、『霊銀道士』なんて名前を知らねェのがいい証拠だ」

確かに、グリダニア近辺で仕事をしていた俺でさえ、そんな道士の噂を耳にした覚えはない。彼らがここを拠点とし始めたのは、ごく最近だろう。
「だから、自分の正体を知るガキが現れたとなりゃ、潮時と見てすぐ店仕舞いにかかってもおかしかねェ。悠長なお上が動くのを待ってる暇なんかねェぞ、こいつは!」

「まあ待て、ランドゥネル」
イウェインが彼を宥める。
「カチコミってお前、何の容疑で突っ込むんだよ。下手したら、お前が暴漢扱いされちまうぞ」
「刃物振り回してガキ一人を追い回したんだ、とっ捕まえる理由にゃ十分だろ!」
「ガキ、ガキ言うなよう」
言い返すランドゥネルの脇で、カミルが膨れっ面になる。
そんなカミルを見遣って、イウェインは告げた。
「それだと、カミル……だったか?こいつを証人に立てる事になる。どんな扱いを受けるか、分からねえぞ」

イウェインもランドゥネルも、偏見に満ちた目によって痛くもない腹を探られ、不愉快な思いをした記憶は鮮明だ。
不機嫌に唸り声を上げるランドゥネルと、眉間の皺を深めるイウェインを見比べて、カミルは戸惑ったような表情を浮かべた。

「とりあえずさ……」
少しばかり気まずい沈黙が降りたので、俺はその場で挙手と共に発言を試みる。
「俺一人で、連中のテントに忍び込んでみるってのは?」
「何でそうなんだよ?」
イウェインが目を剥いた。
「カミルの手荷物を取り返してきてやらんと」
俺がそう続けると、その場の全員――カミルまでもが、はたと目を瞬かせる。

「お祖母さんの手紙だとか、大事な物が色々入ってたんだろ。連中にまるっと持ち逃げされちゃ困るし、鬼哭隊に押収されても、やっぱり面倒だ。返して貰える分だけでも回収して来よう。
で、そのついでに、情報を集める。すぐにでもグリダニアの部隊を動かせるような、悪事の証拠が見つかれば、めっけもんだ」

「あっ、ありがとう……」
口をついて出たような勢いでカミルは礼を述べ、
「じゃあ、おれもついてく!」
と、とんでもない事を言い出した。

「いやいや!危ないだろ」
「オッサンと一緒なら平気だよ。それに荷物つっても、よくある麻袋だから、おれが直接確認した方が早い」
中身がばらされてなけりゃね、とカミルは付け加える。突っ走りがちな割に、弁の立つ少年である。
それよりも、俺の呼称が『おじさん』から『オッサン』に変容しているのはどういう訳だろう。親近感の表れか、格下げられたのか。

「うーん……しゃーないな。見つかったら、すぐに一人で逃げるんだぞ。俺はどうとでも出来るから」
頭を掻いて承諾すれば、カミルは「ヤッタ」と喜んだ。

「確かに、潜入ならお前が適任だが――」
イウェインはまだ渋っている。
俺が昔から、槍使いの割には姑息な戦法が得意な事を、彼は知っているはずだった。
「連中の下っ端に、顔を知られてるだろ?」
「だからこそってのもある。危険な連中を取り逃がす可能性もあるんだ、顔を知られる人間は少ない方が良い。援護は頼みたいが」

「援護か?そいつァ、俺に任せな!」
ランドゥネルが、親指で自身の胸元を叩いてみせた。
彼に頷いてから、俺はイウェインに視線を戻す。
「イウェイン、キャンプ・トランキルに、槍術士ギルドの人が何人か駐在してるんだが……」
俺の挙げた数名の名前を聞いて、イウェインはいくらか、懐かしそうに口元を綻ばせた。
「あいつらか。成程、それなら話の分からん奴らじゃないし、上手く立ち回ってくれるかもな。良いぜ、俺はトランキルまでひとっ走りと行こう。この件を報せてくる」

これで、各々の持ち場が決まった。
「よォっし!久しぶりのカチコミだぜェ!」
「……だからカチコミじゃねえって」
ランドゥネルとイウェインのそんなやり合いも、久々ものだ。
俺は二人を後目に、カミルと野営地の片付けに取り掛かる。

「お前さんも一応、武装しとくか?お守り以外にも」
拭き終えた食器を袋に仕舞い込んで、俺はカミルに呼びかけた。
「えっ、何かあんの?凄い剣とか杖とか?」
彼は期待に目を輝かせる。
「これ」
と差し出したのは、先程俺が水汲み用に抱えて行った古鍋の、蓋部分である。
「ええ……」

カミルはあからさまに、しおしおと落胆したが、これはそう馬鹿にした代物でもない。扱いやすくて攻防一体。流血沙汰に慣れない素人が、下手にナイフなどを振り回すより効果的だ。

「身を守る方を優先した方がいいって。服の中に入れておけば、短剣くらいは弾くぞ」
「うーん……」
「伝説の調理師が、野営中に襲ってきたベヒーモスを撃退した鍋蓋だって噂も」
「ほんとに?」
「いや悪い、冗談」
カミルは機嫌を損ねたが、渡した鍋蓋は、素直に懐へと仕込まれた。

さて、あとは焚き火を消して、作戦開始である。

第4話につづく>
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