Charakter
レオニア王国記 前日譚 マテウス編 その3
Öffentlich
***
「─さて、王子?」
ルイスは、王子が身を隠している書斎机に向かって、声をかけた。
「お聞きになった通りです。そろそろお戻りにならないと、騒ぎが大きくなりましょう」
ルイスの問い掛けに、返事はない。机にゆっくりと歩みより、後ろ側に回り込んで見ると、両膝を抱えて座っている王子と目が合った。
「ごめんなさい。授業を黙って抜け出したりして…」
ルイスはそれには答えず、片膝をついて、王子に向かって右手を差し出した。
「ブラマールやアルザ達にも、心配をかけてしまった。後でちゃんと謝ります」
王子はルイスに手をとられて立ち上がると、スラックスを払うような仕草をした。
「それでようございます。さ、早く─騒ぎが大きくなっては厄介ですよ」
「はい。わかりました。ルイスも、たまにはちゃんと息抜きして下さいね」
「は─、私が、ですか?」
思わずかけられた労いの言葉に、ルイスはやや動揺した。
「はい。目の下が青くなっていますから─」
そう言われて、ルイスははっとなった。
─同じことを、ローザ姫にも言われたことがあるではないか─過ぎ去った遠い日々の中、未だに色褪せない思い出の数々が、彼の脳裡をよぎる─
そしてルイスは、思わず吹き出した。
「─僕、そんなにおかしな事を言いましたか?」
彼の笑いの意味を理解できない王子が、不思議そうな面持ちでルイスを見上げている。
「─いえ、申し訳ありません。王子に心配をかけているようでは、私もまだまだだと言うことです─さ、お行きなさい。夕刻の鐘が鳴る前に」
ルイスにそう促され、王子は我に帰った。
「は、はい!それではルイス、ごきげんよう。また来ますね!」
王子はルイスに一礼すると、慌てて駆け出した。
ドアを閉めるのも忘れて、ぱたぱたと回廊を駆けて行く。
ルイスが、王子の竪琴を手にしたまま返し忘れていた事に気づいた時には、王子の軽やかな足音は既に聞こえなくなっていた。
─城下町の鐘楼から、夕刻の訪れを告げる鐘の音が、風にのって響いて来た。
高く澄み渡った青空は、今やその色を茜色に変えようとしていた。薄紫色のすじ雲が、ゆっくりと西の方角へと流れ行く。
ルイスは、ひとつ大きく伸びをした。胸にたまった息を吐き出し、深く呼吸をする。
そして、王子の残していった竪琴を傍らに、カウチにごろりと身を投げ出した。
ふと見上げれば、窓の形に切り取られた空に、弓張月がその白いかんばせを覗かせているのが見える─それは、ローザ姫の横顔にも似て─ルイスは、そっと目を閉じた。
たまには、こんな日があってもいいさ─。
そう呟いた彼の口許は、自然と綻んでいた。
***(了)
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マ…マテウス王子かわいいいい!
控えめに言ってエンジェル(錯乱)
いやはやマテウスも表現力が素晴らしいねー!
演奏シーンなど、その場所の空気が感じられるようでした。
宰相もカッコよく書いてあってテンションが上がります!
宰相のキャラ好きなので嬉しい(´▽`)
ありがとう、ありがとう。
俺もこの二人には思い入れがあるので、気に入って頂けたようなら良かったです。信頼関係はあった筈なので、その辺がうまく表現出来ていたのならば嬉しい限り。
世界観と、それぞれのイメージを損なわない様に書くのは、大変だけど楽しい作業でした!
マテウスらしい。優しくて思いやりのある素直な人柄が出ているね。ルイスを笑わせるなんてマテウス王子ならではだよね。すごく良い話だった!
すごくいい話でした。 中でもふたりの信頼関係がいいです。
今回の件は、私の教育の甘さが出てしまい、反省せねばと思う次第。 教育とは実に難しいものです。
マテウス王子も、勝手に授業を抜け出すのはいけませんよ。
講師が宿題を用意していますので、やりとげてくださいね。
分からないところはルイス殿に聞くと良いでしょう。 私に聞いても良いですよ。
マテウスエンジェル王子のー(*´Д`*)
素晴らしき、やさしみ(*´꒳`*)
ほんとにマテウス王子は甥として可愛いのぉ(*⁰▿⁰*)
なんと…素敵なエピソード!!
また、とても心地の良い流れるような表現で、すごく惹きこまれました!
マテウス王子とルイス宰相…親子ではないですけれども、
なんというか…愛を感じます!
王子はまだちっさいのに、宰相のことを自然と見抜いている…すごい
ママに教わった曲を一生懸命練習して…(/ω\)
ルイス宰相もこれにはやられましたね…
二人の人物にすごく愛着がわきました(^^)
マテウスさん、これは傑作だと思います!
二人のイメージはめちゃめちゃアップです^^
アルザ、読んでくれてありがとう。
本編では過酷な運命に翻弄される二人なので、
前日譚の中では、日溜まりみたいな日々を過ごして欲しいなーという思いから書きました。
楽しんで頂けたなら何よりです^ ^!
ぶらさん、読んでくれてありがとう!
授業をサボってばかりでごめんなさい(..)
それだけ、のびのびと育っている証拠だと言うことで…
しかし、これがきっかけで、ルイス宰相が直々に教育する宣言をしちゃったかもなぁと、書きながら思いましたw
アルティさん、読んでくれてありがとう。
アルティさんとは、前日譚の時点では、ローザ姫の葬儀の時ぐらいしかお会い出来てない設定になるのかな?
本編では度々王国にいらっしゃるから、会う機会もありそうだよね。強くて優しい、自慢の叔母上だと思います!一度、母上のお話をゆっくり伺いたいものです(^^)
イルミナさん、読んでくれてありがとう!
やや、過分なお褒めにあずかり恐縮です(..)
ローザ姫を中心に(故人ですけれども)紡がれる二人の絆を書きたかったので、それを感じて頂けたなら何よりです。二人の印象アップとの事で、大変嬉しいです(^^)
レオニアは、こうした伸び代が広いのが良いですね!
作中にある秋風が感じられるような、とても爽やかで優しさの見える一幕だね。情感豊かで、美しい!
こういう息抜きシーンがあってこそ、またこの平和な風景が継承権争いで…という心配が活きて、ものすごく良い!マテウスエンジェル!
ルイスもまた格好良く、含みのある切れ者らしく描かれていて…マスターの役得ながらズルい(笑)
俺の前日譚にもエピソードをリンクさせてもらっていて、嬉しいです:)
素敵な話、読ませてくれてありがとう!
レオさんの作品にも、素敵なエピソードがたくさんあったので、勝手にリンク貼らせて頂きました。それもまた、創作の楽しみかと思いまして(^^;
宰相の嫌味な言い回しは、稚拙ながらも力を入れた部分なので、曲者感を感じて頂けたなら何よりでございます(笑)読了頂き、ありがとうございました(´▽`)