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Yukito Nekomiya

Alexander [Gaia]

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小話: 鱈の頭も信用次第

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 曰く。
 東方では、境目を重要視するのだという。昨日と今日。彼方と此方。現世と幽世(かくりよ)……星海のような場所。二者が混じり合うことのないよう引かれた区切りは重要で、だからこそその「区切り」を越える行為もまた重要視される。
 暦を「越える」、すなわち季節の移り変わりもまた同様だ。古い季節から余分なものを持ち込まないよう、また新しい季節に持ち込まれた「身体」が早く馴染むよう、時季に合わせた相応しいものを食べることで体内エーテルを調整するのだという。
(……本当か?)
 内心の疑念を一切表さないよう細心の注意を払いながら、ピピンは小さく息をついた。
 意気揚々とそう語ってくれたのは、英邁なる我らが女王陛下である。なんでも、最近読んだ書籍の受け売りらしい。
 女王としての重責には何ら変わりはないが、それでも、いくつかの大きな懸案事項が片付き、未来への展望が開けたという解放感ゆえだろうか。軽率というほどではないが、このところのナナモは妙な行動力を発揮することが増えたように見える。「幼い頃はお転婆だった」という本人の言が心の底から納得できる闊達さだ。振り回されるパパシャンの胃痛が偲ばれる。
 ともあれ。
(本質的には誤りはないのだろうが……)
 その書籍は、ウルダハが東方と交流を持つようになる、ずっと昔に書かれたものらしい。東方がまだ未知で得体の知れない遠方であったころ、東方出身の冒険者と知り合った商人の友人である学者が記したものだとか。
 ナナモの聡明さを疑うつもりは、ピピンには一切ない。だが、伝聞に伝聞を重ねたその書籍の内容に対しては、ピピンとしてはどこまで信用しきれたものかはわからない、というのが正直なところだ。そもそも、著者自身が積極的に嘘をついたつもりはなくとも、聞き伝えを記したものである以上、著者の知らぬところで、重要なエッセンスが変質、あるいは抜け落ちた可能性はどうやっても付き纏うはずだ。
 もちろん、ところ変われば風習も変わる。エオルゼアの中であってさえも、ウルダハとグリダニアとリムサ・ロミンサでは異なることだってあるだろう。だから、ウルダハでは理解できないにしろ、遠い遠い東方の地ではこれが正当な伝統風習も――。
(いや、やっぱりどうなんだ!?)
「……どうしたのじゃ?」
 フォークを手にしたまま、ぴくりとも動かないピピンに、ナナモが怪訝そうに首を傾げた。これ以上の迷いは、敬愛するナナモに憂いを招きかねない。それはピピンの本意ではなかった。
 明後日な方向に発揮されているような気もするけど、好奇心の餌食になっただけのような気もするけど、それでも、「これ」はナナモの気遣いの結果なのだ。良くないものを祓い落とし、新しい季節を健やかに過ごせるよう、願ってくれた。その気持ちが、何よりも尊く嬉しい。
 だから。
 目の前の皿をじっと見据える。白磁の皿の上に乗せられているのは、シルバーバザー近郊で釣り上げられた新鮮なハーラルハドック……の、頭だ。切り落とされた頭だけが、丁寧に焼き上げられてどんと置かれている。「ナナモ手ずから調理した一品」という肩書がなければ、調理した人間の正気を疑うところだ。おまけに、天を仰いでいるハーラルハドック(頭)の半開きになった口には、薄紫色のサフランの花がこんもりと活けられている。焼いた頭をただ乗せただけでは皿の上が寂しいだろう、というナナモのセンスが暴発した結果と思われるが、おかげで視角に対する暴力度合いがひどい。
 ……いずれにせよ、今のピピンにこれを食さないという選択肢は、絶対にない。
「いただきます」
 覚悟を決めて、ピピンは手にしたフォークをハーラルハドックに突き刺したのだった。


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#エオルゼア版深夜の創作60分一本勝負
お題【節分】
2/2 17:00~17:45(-15分)
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