Charakter

最近、自分はバトルメンターなのだという妄想に取りつかれています。

正確に言うと、バトルメンターのサブキャラだという妄想です。

もっと正確に言うと、バトルメンターでFCマスターでエレゼン女子の私がエンドコンテンツにも飽きてしまって退屈な毎日を過ごしています。それというのも511人いるFCメンバーやビギナーチャンネルの新人さんに「どこか行きたいとこない？お手伝いするよ♪」って言っても「カリンさん上手すぎて簡単にクリアしちゃうからつまんないんですよね」って相手にしてもらえなくて……。よし決めた！若葉で人生やり直します！

、という妄想です。



え？最新のトレンドと違う？

最新のトレンド？って何なんですか？意味が分かんないです。はぁ、まぁ、分かりました。言う通りにやってみます。


『 絶対に許しません。私を追放したFCメンバーのゴミクズどもへ。新パッチが実装されるタイミングで色々お困りなんですってね(笑) 私は可愛い若葉を侍らせつつエオルゼアの英雄って持て囃されてます。実は私、光の戦士だったんですよね(笑) 』



……はぁ、これが最新のトレンドですか……。

内容変わってません？ 別にFCメンバーに対して悪い感情無かったですよね？ いや、むしろ大好きというか一緒に遊びたいのに遊べなくて、っていう話なんですけど。追放もされてませんし。

あと、このゲームやったことあります？ プレイヤー全員、エオルゼアの英雄で光の戦士ですからね。越える力も自分だけの特別なチートスキルとかじゃないです。

そして何より、私こういう「悪いのは自分以外の誰かだ。俺を認めない世界を俺は認めない。だって俺は本当は凄いんだ」みたいな話って好きじゃないんですよね。

いや、分かりますよ。学校とか職場とかでツラい環境に身を置いている方が、空想の世界で幸せになりたい。猫耳とか狐耳とかの女子に理由もなく好意を抱かれてハーレムを作りたいって気持ちは、分からないでもないんですよ。

ただ私が苦手だってだけです。この話は、もう終わりにして良いですか？


………………。


あれ？


あ！そうだ！妄想、というかロールプレイの話でしたね。

私のおすすめロールプレイは、全身が隠れる装備品で種族を秘匿するというロールプレイです。

せっかく頑張ってキャラクリしたのに顔が見えないじゃん、っていうデメリットはありますが重鎧を装備するだけで始められるのでお手軽ですし、街中を鎧姿で歩き回っているだけでエオルゼア中のプレイヤーを欺いている気分になれるので楽しいです。

一例として、フルアーマーを着たロスガルの話を紹介しますね。




『 鎧を着たロスガル 』



ある日、山から一匹のロスガルが下りてきました。

ロスガルは全身がすっぽり覆われるフルアーマーを着ていました。


「 ふふふ、バカな人間どもめ＾＾」


ロスガルはルガディンに成りすまし冒険者として街で生活を始めました。



月日は流れいつしかロスガルにも一緒に冒険する大切な仲間ができました。


『 ねぇねぇルガディンさん。私達もパーティを組んで長いのですから、そろそろお顔を見たいのだけれど 』

『 おいルガディン。お前はとんでもない不細工で兜が外せないってウワサだぞ 』

『 そんな事を言うもんじゃないよ。きっと物凄い美男子なんだよ 』


仲間達に、やいのやいのと囃されて、ロスガルは正体を明かすことにしました。


( ロスガルだと知ったら驚くぞ＾＾ )


ロスガルは仲間達の驚く顔を想像しながら、鎧兜を外しました。


『 ギャー！！ロスガルだ！！食べられる！！』


仲間達は散り散りに逃げてしまいました。





「 ふふふ、バカな人間どもめ＾＾」





「 ………………＾＾ 」




鎧を着たロスガルは山へと帰り、それ以来、二度と人里に下りてくることはありませんでした。

めでたしめでたし





………………。


あれ？


あ！そうだ、ルガディン成りすましロールプレイはもう止めたんですよ。いえ、山には帰っていません。

装備品に縛りの発生するロールプレイだったので、パーティプレイに支障が出るので終わりにしましたね。友達が高難度アライアンスレイドに挑戦したいと言うので、フルアーマータンクは卒業してDPSに転向しました。私がレイドでタンクをやったら絶対にクリアできないですから。

ロールプレイや縛りプレイは当人が楽しくてやってるだけなので、他に大事なことがあれば何時でも止めていいと思っています。

まぁ正体を明かした後は、ロスガルとしてのロールプレイを楽しんでましたね。もちろん公式な設定とかではなく個人的な想像で。

大きな猫なので、水が苦手に違いないと決めつけて、ダンジョン内の水溜まりを迂回したり、フィールドで雨が降ってきたら建物内に逃げ込むなどしていました。

流石にそういう行動をしていると目につくらしく、仲間達に不思議がられたので「 ロスガルは水に濡れると軽度のデバフがつく 」と嘘をついたら皆若葉なので普通に信じ込んでいました。


「 ふふふ、バカな人間どもめ＾＾ 」



いや、ダメだな。この流れ。山に帰される。

この水が苦手というロールプレイも既に止めています。友達のマイホーム完成記念で遊びに行った時に、皆でお風呂に入る流れになり「いや、水が苦手なんで入りたくない」なんて言ったら白けますからね。
あと皆で屋根に登って写真を撮ろうという話になった時も「雨が降ってるから屋外に出たくない」なんて言えないじゃないですか。

こういう感じで支障が出ればライトな感覚で止めていくのが個人的なロールプレイのスタイルだったんですよね……今までは！


お待たせしました。本題に入ります。


今現在、私が実践しているロールプレイは脳内自己完結型なので他人に迷惑がかかりません。コミュニケーション上で何の支障も出ないので止める必要もありません。

はい、掲題の通りです。

実は私はバトルメンターだったのです！
剣と王冠ではなく若葉マークが生えているのはサブキャラだからです。


バトルメンターですから初見のダンジョンなどありません。ルーレットだろうと何だろうと怖がらずに申請できます。

ダンジョンで死んだりギミック処理に失敗するのは本物の初心者だと思い込ませるための演技です。

何の知識もないのも物覚えが悪いのも全て嘘なんです。

私はバカで下手くそな若葉なんかじゃないんです。私は本当は凄いんです。何でも知っていて、超強いんです。あはは。あはははは。



どうですか？ このロールプレイ！

精神衛生上とても良いですし、複雑な設定を盛り込んでも全て脳内で完結するため問題が表出することがありません。

参考までに、私のメインキャラクターは褐色の女エレゼンで名前はカリントウ・ペロペロと言います。

超巨大FCの『 大好き！カリントウ・ペロペロ様 』の偉大なるマスターです。

511人いるFCメンバーの内450人は美男美女のミコッテです。残りは耳や尻尾のある種族と狐耳を装備した美男美女のヒューランやララフェルです。全員私の好みの姿にミラプリさせています。最近のお気に入りはララフェルの男の子です。獣耳の美少年って良いものですよね。あはは。あはははは。

あ！勘違いしないでくださいね。現状に不満はないのです。私がやってるロールプレイは全て、視点を多角的にすることで一つの物事に幾通りかの意味を与えて一人でキャッキャと喜ぶためのものなのです。

素晴らしき今を、より多元的に味わい尽くすための貪欲な行為なのです。


『 大好きな幼馴染みの転校生が実は新任教師で未来の私の生徒だったなんて！ 』


みたいなことです。分かりましたね。

関係性を勝手に複雑化することで、相手に対する感情もどんどん複雑化します。


私は今、若葉の仲間達と少人数のグループを作って遊ばせていただいているのですが、これってMMORPG的には最高の最高に楽しい瞬間だと思うんですよね。

仲間達に対する感情って私の場合は、尊敬や共感がメインなんです。もちろん友情は強く感じていますよ。一緒に遊んでる同期に対する感覚って、そういうので本来は十分だと思います。常に対等でいれる関係って貴重ですしね。


いやーw

でも、やっぱりwどうしてもw

こう思っちゃうんですよねw

『 若葉かわいいw 』ってw


若葉って、かわいいですよね。なんかこう若葉の集団が一生懸命にハウジングしたりゴールドソーサー行ってはしゃぎ回ったり、シンクや下限のコンテンツに挑戦して死んだりしてるの見てると、本当に何と言うか……血を吐いて死にそうになります。

かわいいいいいいいwwwwwwって(笑)

実際は私が一番の初心者で何も分かっていなくてストーリー進行も遅くてお荷物なんですけど、本当の私はバトルメンターですからね(笑)

一緒に遊んでる仲間を可愛い可愛いと上から目線で愛でる権利があるのです。

本当に可愛い若葉たちw全員頭からバリバリと食べたいくらい可愛いw

はい。そういう感じでバトルメンターの第二の生き方として可愛い可愛い若葉たちに囲まれて楽しいエオルゼアライフを過ごしていますという近況報告な日記でした(笑)













一年後 ～



LSリーダーのタケさんが言った。


「 今日の挑戦で一旦終わりにしますね。今まで私のワガママにお付き合いいただき本当にありがとうございました！ 」


LSチャットの反応は疎らだ。一時期は盛況を究めたLSの内情を深く知り尽くしている身からすると、非常に複雑な気分だった。

ナントカカントカという高難度アライアンスレイドをクリアするために集められたLSメンバー11人と、助っ人として参戦してくれた各メンバーのFCメンバー13人。

先日、かなり初期から在籍していたLSメンバーが無言脱退してから、本当にあっという間に雰囲気が悪くなった。

インしたら必ず何か発言してお互いの近況を報告しあって笑い合っていたのは、数ヶ月前の事なのに……。

「 大切な仲間と一緒なら。どんなコンテンツだって、どんな困難だって楽しいよねw 」

LSメンバーの誰かがチャットしていた発言を思い出す。誰が言った言葉かは思い出せないのに、内容だけ鮮烈に覚えている。もしかしたら、言ったのは私だったのかも知れない。

もうこのLSはダメだな……。他でもない自分自身がそう確信してしまっているのが何より悲しかった。

大きな困難に立ち向かい、それを突破できたなら、それは本当に素敵で代え難い、特別な経験になるだろう。

……立ち向かっても、ダメだったら？

それが今の我々なんだ。


何度も聴いた耳障りな音楽が鳴り出しコンテンツが始まる。いきなり若葉マークのないプレイヤーさんが落ちる。皆、もう集中力も切れてるんだ。

その方を筆頭に傍目にも雑に見えるプレイが続きパーティは半壊。発起人である白魔道士のタケさんが、実際はやる気もクリアする気もないLSメンバーや助っ人の方々を必死で蘇生して回っている。




「 もういいよタケさん 」

「 もう頑張らなくていいから 」

「 もうやめよ 」

「 そうだ。ゾディアックウェポンが欲しいの。ちょっとつきあってよ 」

「 またFATEに行って遊ぼうよ 」

「 今度さ。久し振りに皆で屋根に登って遊ぼうよ。エルさんもきっと、ちゃんと話したら分かってくれるから 」




当然、こんな長文を逃げ惑いながらチャットで打つ余裕なんか無いので発言はされない。何より私には、こんなことを言う権利はない。

DPSに転向して一年がたっても何も成長せずバカな初心者のままでゲームも下手で足手まといで、ダメージ貢献なんて夢のまた夢で……。

このコンテンツの名前すらまともに覚えていないんだ！


スキさんのナイトが教科書通りの動きで敵の攻撃をコントロールし、その間にタケさんが仲間を回復する。

そうだ。この二人は真面目で勤勉で、この数十回にわたる挑戦でちゃんと連携も確立していて、主要メンバーたる責務を全うしていて……。




私は、いったい何なんだ……。




『 ガリさん。いえ、カリンさん 』



LSメンバーのサラさんからTellチャットが届く。落ち着いた口調とは裏腹に、サラさんは敵の攻撃を避けながらちょこまかと走り回っている。



『 そのまま聞いて。これはマクロによる予め入力したショートカットチャットなの 』


！！！！

そう言えば聞いたことがある。高難度アライアンスレイドにはマクロが必須だと。

これが攻略のためのマクロなのか！



『 私ね、気付いていたよ。本当はバトルメンターなんですよね？ 』

『 私たちを可愛い可愛いとか、頭から食べたいとかいつも言っていたから、もしかしたらって思っていたの 』

『 疑念が確信に変わったのは、ガルーダ戦。皆が死んだなかで一人だけ走り回っていたでしょ？ 私、あの時に確信したの 』

『 あの時、謎のバトルメンタースキルを発動させて生き残ったんだよね？ 』

『 本垢も発見してますからね(笑) 』



本垢？ あ！ RMTで三万円で購入した全ジョブカンストのアカウントを使った裏垢日記を見てしまったんだろうか？

ロールプレイに真実味を待たせようと、裏垢？本垢？日記を一週間だけ投稿したんだった。



『 お願いです！本気を出してください！タケさんの、ううん皆の夢を叶えるためにはカリン様の力が必要なんです！お願いですから、本当の力を解放して……！ 』




あぁ、本当に、なんて、


ふふふ、バカな若葉だな……。


真面目なところ、バカなところ、本当に全てが愛しい私の可愛い可愛い若葉たち。



分かってる。本当のバカは私なんだ。

何も分からず、成長もせず、現実逃避ばかりして嘘ばかりついて。




サラさんが範囲を踏んで落ちる間際、DPSからDPSへの何かのバフが私にかかる。私はバカな初心者だから、それが何ていうバフなのかも分からない。



でもさ、今自分がやるべきことは分かったよ。




私は今この瞬間、本当のバトルメンターになるんだ。

バトルメンターだって、もとは初心者だよね！
だったら初心者イコールでバトルメンターってことだよね！

だったら……バカで下手くそな初心者の私は最強のバトルメンターってことじゃんか！！！！




足りない設定を、おぼろ豆腐みたいな脳みそが次々と補完していく。



私は最強のバトルメンターなんだ！今この瞬間まではトラックと特急列車にひかれた後遺症で能力が封印されていたんだ！



逃げ回っていて、一切使っていなかったアビリティを全て使う。





秘剣……解放、全集中、


にっかり、石切、同担拒否。


推しかぶりには死を、



ナマモノあぶない空気を読んで。


いざ、拙者に斬れぬ物なし

……乱れ雪月花！！！！！！！！！！




「 これがバトルメンターの力にゃあああああああああああああああ！！！ 」









































もちろんパーティは全滅した。



鎧を着たロスガルは山へと帰り、それ以来、二度と人里に下りてくることはありませんでした。

めでたしめでたし