【呪を言祝ぐ冒険者】
FF14二次創作小説です。
第22話 漲る殺意、芽生える闘志
抜刀……いや、抜槍しているアレクシアさんは、中腰に両手槍を構え、切っ先はホルガーさんの足元を狙うように下げられている。
ホルガーさんは片手剣と小盾を構え、アレクシアさんを警戒する形で神経を尖らせている。
私は――スタッグホーンスタッフを構えているものの、この事態に少なからず気後れしていた。
相手が人に害を為すモンスターであれば、躊躇無く呪術を行使できる。それは間違いない。けれど、相手が同じ人となれば、話は違ってくる。
この期に及んで人殺しになるのを忌避してる訳じゃない。ただ、本当に人を相手に立ち回れるのか、そこだけが心配だった。
「オイオイ竜騎士さんよォ! 皆殺しにしたがってる連中がどんどん逃げて行くぜェ!? 俺の剣がそんなに怖ェか!? エェオイ!」
ガンガン、と片手剣の柄で小盾を殴って挑発するホルガーさんに、アレクシアさんは怒りに満ちた……けれど冷酷さを残した、状況を正確に把握しようとしている眼差しで、くっ、と口角を吊り上げた。
「連中に逃げられて困るのは、お前達の方ではないのか?」
「何ィ……?」
「――リシャール、準備は出来たのか?」
アレクシアさんのそのたった一言に、あまりにも意識を持っていかれた。
リシャールさんが何かしている――!? と意識がそちらに向いた、そのたった一刹那が、彼女には必要だったんだ。
ホルガーさんも同じように意識は一瞬リシャールさんに向く。自身に対する敵視が消えた瞬間、彼女は恐ろしく速く跳躍し、その場から姿を消した。
私とホルガーさんはリシャールさんを見て、彼が不思議そうに見つめ返す変な間を作った瞬間、アレクシアさんの策略だったのだと悟り、姿が消えた彼女を目撃する。
「なッ、どこ消えやがっ――――」ホルガーさんが慌ててアレクシアさんを探そうとして、凶槍がその頭頂に突き刺さる――――直前、私は咄嗟に彼の背中に体当たりして、一緒に転がって一撃必殺を回避した。
「何だ何だ!?」
倒されてすぐに起き上がったホルガーさんの声を聞いて無事を確認すると、私は間近で地面に突き刺したまま硬直しているアレクシアさんを見やる。
「……よく見切れたな? 竜騎士のジャンプ、見覚えが有ったか?」
地面から矛を抜き、再び中腰の構えで、今度は私を睨み据えるアレクシアさん。
見覚えなんて有る訳が無かった。全部咄嗟の判断だ。アレクシアさんを見失った一瞬、影がホルガーさんに落ちていた事だけを頼りに体当たりしたに過ぎない。それこそタイミングが悪ければ、あの凶槍は私を貫いていただろう。
緊張感と焦燥が心臓を苛め抜く。全身から冷や汗が噴き出し、思考がどんどん空転していく感覚に満たされた。
これが、人の殺意。全霊で、何としてでも殺し切ると言う、圧倒的な敵意。
呼気が乱れていく。視野が狭窄していく。意識が明滅する。
「落ち着けお嬢さん、俺の声を聞いてくれ」
ホルガーさんが何か言っている声は聞こえるけれど、言葉の内容までは理解できない。
けれど、あんなに猛っていた筈のホルガーさんが一番落ち着いているのが、何だかおかしくて、思わず吹き出しそうになってしまった。
「俺が奴の気を惹く。その間に呪術で何とか出来るか?」
「あ、あのっ、ホルガーさん、何でそんな落ち着いて……」
「出来るかって訊いたが、やるしかねえ。後は頼んだぜ、お嬢さん!」
一歩前に出て。私とアレクシアさんの間に割って入るホルガーさん。
「姑息な手を使うじゃねェーの、エェ!? 竜騎士さんがよォ!!」
「誉め言葉として受け取らせて貰おう」アレクシアさんがニヤリと口唇を歪める。「形振り構っていられないのが伝わったのなら何よりだ」
「素直に投降しちゃくれねえのか? 俺だって無用な殺生は好まねえんだが」
「ほぅ。見逃してくれると言うのなら耳を傾けてやっても良いが?」
緊張で足が震えている。けれど、それでも立ち上がる時間を、ホルガーさんが稼いでくれているのだと察した。
上背の有るホルガーさんの陰で、小さな私はゆっくりと態勢を立て直す。アレクシアさんも気づいていない訳じゃないと思う。彼女だって、この状況を打開する術を今、全力で模索している筈だ。
辺りに居た行商人や冒険者は遠巻きにこちらを見つめている。鉄灯団の人達も応援を呼んでいるようで、リンクパールで連絡を取り合っているのが分かった。
時間を掛ければこちらの勝利、の筈だ。何れは鉄灯団の応援が来て、二人を拘束してくれる筈。
……けれど、アレクシアさんも、リシャールさんも、まだ諦めていないって目をしている……!
「見逃す事は出来ねーな。だが、口添え程度ならしてやっても良いぜ?」
「話にならないな。――リシャール、そろそろ良いか?」
アレクシアさんが、仕掛ける気配を察した。
またリシャールさんに意識を向けて、必殺の攻撃を仕掛ける前振り。
そう思うも、思ったけれど、一度破られた手を、二度も擦るって事は、有る……?
「その手にゃ乗らねえよ!」
ホルガーさんがアレクシアさんから一切目を逸らさずに突貫する後ろ姿に、私は「だめっ! ホルガーさん!」と思わず制止の声を飛ばしたが、……一瞬、遅かった。
リシャールさんは構えた銃を発砲し、ホルガーさんを撃ち抜いた。
全く見当違いからの銃撃にホルガーさんは顔を驚愕の色に満たしながら、アレクシアさんに向かって倒れ込んだ。
「ホルガーさん!!」
血溜まりが拡がっていく。
事態はどんどん悪くなっていく。
アレクシアさんが私を見つめながら、陰惨な笑みを浮かべて、呟いた。
「次は、――お前の番だ」
――――この人は、ここで、倒さなきゃいけない。
本能が、彼女を討てと。そう、産声を上げた。