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Juliette Blancheneige

der lebende Schild

Alexander [Gaia]

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改訂版【魂を紡ぐもの セイン】第一話『思慕のマテリア』4

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1-7

 ……どうしてこうなったのか、アステルは思い返す。が、よくわからない。
 時系列は分かる。何が起こったかは分かっている。
 しかし、どうしてこんな宴会騒ぎになっているのだろうか。それも、ストーンズスローで、だ。

 ルーシーたちと別れた後、何故かセインはアステルを連れて釣りに行った。スートクリーク下流の、シラディハ遺跡のあたりだ。
「メイデンカープを釣る。塩焼きにすると美味い」
 そう言って流れるような手際で仕掛けを用意すると、セインは釣り糸を垂らし始めた。
 そして――
「よっ」
 あっという間に一匹釣った。アステルはまだ針に釣り餌を刺しているところだった。釣り上げられた魚自身も、何が起こったかわかっていないようだった。
 その後も、恐ろしいペースでセインは獲物を釣り上げていく。あまりの釣れっぷりに凝視してしまい、自分のエサをバラされることもしばしばあった。
「息を合わせるのがコツだな」
「魚と?」
「いや。川の流れと」
 という、まったくわけのわからない答えを返されてアステルは困惑した。
 小一時間もすると、大きめの木箱にも入りきらない量のメイデンカープが釣れた。アステルは二匹がいいところだった。

 釣った魚を持ちかえると、セインは黙々と魚に塩を振り、火を起こし、串を打ってあぶり始めた。
 周囲に魚の焼けるどこか甘い匂いが立ち込める。
 最初は胡散臭そうに遠巻きにセインを見ていた難民たちが、匂いに惹かれて近寄ってきていた。
「なああんた……そんなにいっぱいの魚、どうするんだ?」
 とうとう、難民の一人が耐え切れずに話しかけた。
「食うかい?」
 セインは手近の、一番よく焼けていそうな魚を男に差し出した。
「か……金なんか持ってねえぞ」
「いらないよ。ちょっと話を聞いてくれればそれでいい」
 それなら……と、男は魚を受け取って座った。余程空腹だったのか、男は夢中でかぶりつき始めた。
「俺はセイン。あんたは?」
「ブルーノだ」
「そうか。ブルーノはどこの生まれだ?」
「ラノシアだ。霊災の時に船をやられちまってな、ベスパーベイに流れ着いたのさ。それ以来いいこと無しだよ……!」
 話を聞いてくれれば、と言った割りに、セインは一向に本題に入らない。ブルーノ身の上話を聞いて相槌を打っている。
 そのうち、また別の難民がセインのところにやってきた。セインは、その男にも魚を振るまい、同じことを言った。
 一人、また一人とセインを囲むものは増えた。
 騒ぎを見に来た者の中に、難民相手に商売をしている商人たちもいた。彼らも霊災難民だったりアラミゴの流民だったりで、都市内で商売できないという意味では難民と言ってよかった。
 セインは彼らを呼び、彼らの扱っている酒や肉を買い取った。そしてそれも皆に振る舞った。
 気が付けば、人の輪はかなりの人数になっていた。もはや最初の目的を気にするものも無く、とにかく食べられる、ということで人が集まってきていた。

 暴動以降、ストーンズスローの住人達は打ちひしがれ、無力感にさいなまれた者が多かった。
 元々住人同士のつながりなど薄く、助け合う余裕すら絞り出さねば存在しない場所だった。それがさらに酷くなっていたのだ。
 ――その住人同士が、笑い合っている。
 その原因がセインにあることは明白だった。この不思議な男は、あっという間に難民たちとなじみ、彼らに受け入れられている。
 セインは最初、自分の話をしない。相手の話を聞く。それも、真摯にだ。流し聞きしているようには見えない。それでいて、複数の人間と同時に会話をしているところも見る。
 そしてセインの前では、誰もが自分のことを語りたがるのだ。 
 セインは人の名前を忘れない。これだけの人数、しかも初対面の者ばかりなのに、旧知の仲の様に彼らに呼び掛けている。
 
 あぐらをかいたセインの膝の間に、ちょこんと二歳くらいの女の子が座っている。その子の母親は、普段は神経質なまでに女の子を手放さないのに。今は他の女性たちと、酒を飲んで笑い合っている。
 それをぼうっと見ていたアステルは、セインと先のブルーノの会話を耳にして我に返った。
「暴動の前くらいからいたのか?」
「そのちょっと前だな。陰気くせえ奴だったよ。ダラガブがどうの、ってぶつぶつ言ってたな」
「ああいたなそんなヤツ」
 別の難民が話を承ける。
「あいつ、結構誰かに話しかけてたよな。そんでうるせえって殴られてんの」
「その男に話しかけられてた人は今いるか?」
「いるんじゃねえの? ――あれ、フォンチェの奴は?」
「暴動ん時から見てねえよ」
「死んだんじゃねえ?」
「うお、気が付かなかった。んじゃあ、ヤムシーだ」
「あいつも暴動の後から見てないよ」
「あれ? そうだっけ?」
「……暴動のとき、その男は?」
「そういやいなかったな。ん? そんときから見てねえか?」
「私、見たわ」
 寝てしまった子供をセインから受け取って抱きながら、母親が言った。
「暴動のすぐ後くらいに、線路の上を歩いてたわ」
「線路ぉ? ブラックブラッシュの?」
「操車庫からちょっと行くと、トンネルあるじゃない。あの手前。こっちも忙しかったから、ちらっと見て終わりだけど」
「ミリアムさんは? その男に話しかけられていたことは?」
 セインの問いに、アステルの心臓がどきりと跳ね上がった。
「……見たぞ」
 ぼそりと答えたのは、片足の無い青年だった。足は、先の暴動で失ったらしい。アステルがエーリヒを殺した犯人を探したときも、ミリアムの失踪について聞いて回ったときも、不機嫌そうに「失せろ」とだけ言った青年だった。
「エーリヒが死んで、アステルが犯人捜しとかで出てったまま帰ってこないときだ。ミリアムたちのテントに、そいつが入っていくのを見た」
「なんで……」
 今になってそれを言うのか、と言いかけたアステルを一瞥して、男はそっぽを向いたまま答えた。
「そんな胡散臭い奴だなんて知らなかったんだよ。あのころ、ミリアムを心配して何人か様子を見に行ってたりしたろ。その一人かと思ったんだよ」
 ここで話を聞かなければ、思い出さなかったかもしれない、と男は誰に言うともなく付け足した。
「あ、あれひょっとして二人で歩いてたのか?」
 酒売りの男が言う。
「その怪しい男が操車庫のほうに歩いてて、その後から結構離れてミリアムさんが歩いてたんだよな。距離あったから、一緒だと思わなかったよ」
「いつ頃?」
「おんなじさ。エーリヒが死んだあとだよ。――てか、ミリアムさんいなくなってたのか。知らなかったよ」
「だからアステルが探し回ってたんじゃないのさ」
「そっか、俺それもよくわかってなかった。悪いなアステル」
「あ……うん」
 まさか謝られると思わず、動揺したアステルは反応が遅れる。
 今や、難民たちはミリアム失踪当時の状況について、自分が知っていることを口々に述べている。
 アステルが喚いて、怒鳴るように質問しても得られなかった答えが、どんどん集まってくる。
 これを――狙っていたのか。セインの方を振り返ると、薄い微笑みと共に軽く頷かれた。その目はすぐに難民たちへ戻され、彼らの喋ることを聞き分け、時折質問を挟む。 
 この人に任せていれば。姉の行方は分かるのかもしれない。
 不安が完全に消えたわけではない。けれど、昨日まではいなかった味方を、自分は得た。
 肩から重荷が消えていくような感じがした。背中が、熱くなる。急に腹の虫が騒いで、アステルは串に刺されたマーモットの肉にかぶりついた。

「こっちは準備終わったぞ」
 セインが眠ってしまったアステルをテントに運び終え出てくると、ルーシーが待ち構えていた。
 時ならぬ宴は終わり、人々はそれぞれの寝床へと戻っていく。
 通り過ぎる幾人かの難民たちに挨拶しながら、セインが言う。
「お疲れ。こっちの状況はさっきパールで連絡した通りだ」
「行く? 時間も余りないけど」
「行く。“ミリアムに近付いていた男”の正体は掴んでおきたい」
「おけ。行こう」
 頷くと、ルーシーは魔道書を開いた。魔紋が光り、地面に同じ魔紋を刻む。刻まれた魔紋は魔道書の魔紋と同じ、赤紫の魔力光を発して――黒い騎鳥を呼び出した。
 チョコボに似ているが、チョコボより大型で、観察すれば違いがいくつもあった。もっとも異なるのは足と頭だろう。チョコボの足は三本指である。が、この騎鳥は四本指だった。そして黒い兜に覆われた頭。兜には山羊の角のようなねじくれた角が付いているのだが、これはよく見れば兜の装飾ではなかった。騎鳥の頭から直接生えているのだ。
 騎鳥には二人乗り用の鞍が付いていた。セインは騎鳥のくちばしを撫でると先にまたがり、ルーシーに手を差し伸べた。ごく自然に、ルーシーはその手を掴んでセインの後ろに収まる。
 騎鳥が走り出した。星明りの下を、滑らかに走っていく。その目が淡く赤く輝いていた。
「〈最後の群民〉か」
「おそらくは」
 セインが頷いた。
 ――〈最後の群民〉。
 第六星暦末期に生まれた、終末思想を掲げる集団である。
 月の衛星ダラガブを『救世神』であるとし、その降臨による世界の浄化と、その後も生き残る自分たち、というのがおおよその教義であった。
 第七霊災を乗り越え、未来に生きのびる価値があるのは、清く正しく生きる選ばれし民である我ら〈最後の群民〉のみ。
 そう信じていた彼らは、しかしカルテノーでダラガブが砕け散ったことで打ちひしがれ――
 第七霊災後、彼らは『自分たち以外』の選ばれておらぬ俗物どもが邪魔をしたとして、世界のすべてに復讐を始めた。
 ダラガブの復活と世界の浄化のためならば。
 現世を穢すためならば。
 ヴォイドの妖異を呼び、血の供儀を以てして世界を血の海に沈める。その果てに、ダラガブが復活すると信じて。それが、今の〈最後の群民〉が掲げる教義であった。
「彼らの教義は、『俗世の腐敗した体制』の批判から始まる。既存の権力を責め、自分たちは彼らとは違う、と説く。――それは、銅刃団というウルダハの『体制』に恋人を殺されたと思うミリアムさんにとって、染み入る言葉だったろう」
「復讐の力を、その手に、か」
 そういうことだ、と応じながら、セインは騎鳥の足を緩めた。ウルダハ操車庫からブラックブラッシュへと至る途中のトンネル。星の光も届かぬ暗闇に、騎鳥の赤い目の光だけがウィル・オ・ザ・ウィスプの様に浮かぶ。
 ルーシーが魔道書を開く。魔紋が命脈し、無数の火の玉――プラズモイドが姿を現した。
 淡い光がトンネルを満たす。騎鳥から降りたセインが、壁のあちこちを触っていく。
「――これか」
 その手が止まった場所には、うっすらと岩に筋が入っていた。慎重に触れた後、セインは指を裂け目に食い込ませた。ごとりと、岩がわずかに動く。人の顔ほどの岩の塊が、その場所にはめ込まれているようだった。セインは慎重にそれを取り外す。厚みはあまりなかった。
 岩を取り払った場所に、紙が張り付けてあった。複雑で奇怪な紋様だった。
「わかるか?」
「造作も無い」
 得意げに笑うと、ルーシーは紋様に手をかざした。紋様が光を放つさまは、彼女の持つ魔道書の魔紋とよく似ていた。
 唐突に、目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。
 トンネルの壁がカーテンを押し広げたようにぐにゃりと歪み、昏い穴をこちらに晒した。人が一人通れるだけの穴だった。
「行こう」
 セインの呼びかけに答えるように、プラズモイドたちが穴の中に入っていく。その淡い光が――惨劇の跡を照らしあげた。

 ウルダハのエーテライトプラザに等しいほどの大きさの部屋だった。
 生活に用いるような調度は何もない。乱暴に岩をくり貫いただけに見えるその部屋には、いくつもの死体が転がっていた。
 そして、床に描かれた魔法陣。赤黒いそれは、おそらく血で描かれたのだろう。部屋の奥には、失血死したと思しき男の死体があった。
 魔法陣の周囲には、手足を縛られた男女の死体がいくつもあった。皆一様に、骨と皮だけが残された死体だった。セインがそれに触れると、死体はさくり、と乾いた音を立てて崩れた。
「吸われたのか」
 呟いて立ち上がる。アステルから聞いているミリアムの特徴とは、いずれの死体も合致しないようだった。
 むしろ、難民たちから聞いた、暴動とその前後に姿が見えなくなった者たちの特徴と合致する。
「本人は……そこか」
 視界の先、魔法陣の中央近くに、赤いカウルを着た男が倒れていた。これも死体だった。
 赤いカウルの男は、全身に幾つもの穴が開いていた。異常に鋭い杭のようなもので幾度も刺されれば、こういう死体になるだろうか。
 男の顔は恐怖で歪んでいた。
「う? うーん……ええー」
 困惑したようなルーシーの声に、セインはそちらを向いた。
「どうした?」
「コレ――ダメだ」
 魔法陣を触っていたルーシーが立ち上がる。
「召喚できなかったのか?」
「いや、ゲートを開く駆式自体は問題なく書けてる。問題は」
 肩をすくめて、苦笑する。
「召喚後の妖異を服従させるための魔術式が、根本から間違ってるってコトさ」
「つまり……自由に動ける?」
「そ」
 セインの傍らに並ぶと、ルーシーは男の死体を軽く蹴った。くしゃり、と軽い男を立てて男の死体も崩れた。 
「思うにコイツ、『勉強』の途中だったんだろな。タムタラかアムダプールで妖異召喚を習ってたんだろ。
 で、例の光の戦士、だっけか。ソレに根城を襲われて、うまくやったのか逃げ出したのか……とにかく途中から独学なんだ」
「……ミリアムさんの状態は……」
「こればっかりは会ってみないとあたしにだって分からん。――ま、もうすぐ会えるわけだが」
 そう言ってルーシーは踵を返した。もうここには興味が失せたらしい。出口へと向かいながら、惨劇など無いかのように楽しげに告げた。
「行こうぜセイン。色男が泣きわめきながら待ってるよ?」

改訂版【魂を紡ぐもの セイン】第一話『思慕のマテリア』5へ続く
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