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Juliette Blancheneige

der lebende Schild

Alexander [Gaia]

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『Mon étoile』(6)後

Öffentlich
6-2

「護衛!? ウルダハで!?」
 ビアストの突然の宣告に、ヤヤカは驚きの声を上げた。
 ヤフェームでならまだしも、ウルダハ都市内での護衛など必要あるとは思えない。
 そも、ヤフェーム行きの時は遺構の仕掛けを解除する必要があったから、その配置をしただけだ。常に護衛チームが必要であるとはヤヤカは考えていない。
「必要ないわ」
 これ以上の束縛は不快極まる。きっぱりと拒否の姿勢を示したヤヤカに、ビアストは断固として首を横に振った。
「これに関しちゃ譲らねえぞ」
 一拍置いてから、ヤヤカを睨むように見つめる。その目の真剣さに、ヤヤカは口を噤んだ。噤まざるを得なかった。
「俺は今、大きい勝負を仕掛けている。――ヤツからもぎ取るか、俺が潰されるか。一世一代の大勝負だ」
 歯を剥き出しにして笑うビアスト。ただし、表情が笑顔のようになっただけだ。むしろ威嚇に近かった。
「そんなときに隙を見せたくねえ。……ヤツはあらゆる手段を使ってくる。オマエを誘拐するなんて普通にやってくる」
「……“ヤツ”?」
 ヤヤカの疑問に答えず、ビアストは続ける。
「オマエの身辺警護をする奴が必要なんだ。ギードたちがいりゃあ何の問題もなかった。……それができねえのは、オマエにも、オマエたちにも責任があるだろうが。だから、そっちのナイトを寄こせ」
 あまりにも身勝手な言い分だった。ただし、気圧されてしまっているのは確かだ。ヤヤカは慌てて言いつのる。
「寄こせ、って! 彼らにも仕事があるのよ? 冒険者のパーティから盾役を抜いたら支障をきたすのよ?」
「んなこたぁ分かってるんだよコッチだってな。とりあえず二、三か月の話でいい。その間に連中がやる仕事くらいの金は出してやるよ。いいな? 有無は言わせねえ。今日からだ。屋敷に連れてこい」
「ちょっと……!」
 一気に言い終えると、ビアストは席を立った。扉が開かれると、廊下に待機していた部下が駆け寄る。慌ただしく指示をするビアストは、もうこちらを見ようともしない。
「……なんなの」
 わたしを誘拐? それが足枷になるのかとヤヤカは疑問に思ったが、すぐに思い直した。それで自分が殺されでもすれば、ビアストの面目は丸つぶれだ。それに、ブライトリリーの婿養子、という立場は、妻であり名目上の後継者であるヤヤカが生きていてこその立場だ。
 それにしても。
 そこまでのことをする相手とは誰なのだろう。誘拐などという犯罪行為をするかもしれないとは、つまり後ろ暗い取引なのだろうか。
 あるいは。
 『そういう手札』も切れる相手か。砂蠍衆になりたいと語っていた、ビアスト。そのために“格”を手に入れようと、ヤヤカの家を乗っ取ったビアスト。彼が挑む、自分より格上の相手。――すなわち。
「砂蠍衆の誰か……いいえ」
 誰か、ではない。そんな相手は、一人しかいない。でも、まさか。ヤヤカはその男に会ったことがある。父が健在のころ、食事の席を共にしたことが幾度かある。
「……ロロリトおじさまに、挑むつもりなの……?」

 皆にパールで話をすると、ちょうどよく彼らも話があるので来てほしいということだった。ヤヤカはクイックサンド向かい、仲間たちと合流した。
「……まあ、いいんじゃねえか」
 憤るかと思った仲間たちは、意外にも賛同した。
 驚いたヤヤカに、メイナードは「まあコレを読め」と紙束を手渡した。先日の遺構での顛末をまとめた報告書の上に、小さい紙が挟まっていた。
『俺たちはビアストの野郎を調べる。ギードたちの仕事と絡んで、きな臭い話が流れてきた。お前まで巻き込まれる前に奴の素性を調べ、場合によっては官憲に突き出す』
 紙片には、そう記されていた。声を出さないようにしたのは、クラリッサの監視を慮ってのことだろう。
「……!」
 やはりそうなのか、という思いがした。後ろ暗いところがあるのだろう、とは以前から感じていたことだ。
 その一方で、「でかい勝負」と言ったときの、ビアストの真剣な眼差しを思い出す。出自は、そうなのかもしれない。だが、今のあの男は。
「ってなワケでな、そっちにテオが行くのはむしろ好都合だ。動きによっちゃあ……」
 ちらりと離れた場所に立つクラリッサを見てから、メイナードが声を潜めた。
「お前を連れだせるからな」
「…………わかった」
 ヤヤカは頷いた。駄目だ。流されるな。自分にそう言い聞かせて、ヤヤカは束の間、唇を噛み締めた。

 テオドールを伴い屋敷に帰還すると、使用人がすぐに来るように、と伝えに来た。そのままヤヤカたちを書斎へ連れて行く。
 書斎には多くの部下がいたが、ヤヤカたちが到着すると、ビアストは速やかに人払いをした。そして、テオドールの目の前に立った。
「オマエが……ヤヤカの……」
 そう言って、ビアストはじっとテオドールをねめつけた。対するテオドールは、真っ直ぐにビアストへ視線を返した。
 先に視線を逸らしたのはビアストだった。
「……ヤヤカを護れ。本望だろう」
 唸るように、ビアストは言った。
「はい。機会を与えてくださり、感謝しています、ビアストさん。身命を賭してお守りします」
「ハッ。騎士みてえな口の利き方しやがって。……ならついでに言うが、身分はわきまえろ。お前は俺に雇われた。ヤヤカはお前の仲間じゃない、俺の妻だ」
「……ビアスト?」
「“様”をつけろ。仕える主君にそうするように、俺とヤヤカを敬え!」
「ビアスト!」
 ヤヤカの叱責に束の間に視線を寄こすだけで、ビアストはテオドールを見つめている。もう、睨みつけていると言っていい。
「――承知しました。ビアスト様」
 恭しく礼をするテオドール。だが、跪きはしなかった。それを――その意味を理解しているのか、ビアストは奥歯をぎりりと鳴らして背を向けた。
 扉に向かいながら、叫んだ。
「クラリッサ!」
「――はい」
「わかってるな!?」
「――はい」
 感情のこもらない返答と一礼。それを確認もせずに、ビアストは部屋を出て行った。
「……なんなの、もう」
 呆れて憤るヤヤカの横で、テオドールは腕組みをして考え込んでいた。ヤヤカはそれに気付かなかった。溜息を一つついて、テオドールを見上げ――いつものように、彼に向ける笑顔と共に「テオ」と呼びかけた、そのとき。
「ヤヤカ様」
 クラリッサが硬い声で呼びかけた。咎めるような響き。思わずクラリッサを見上げたヤヤカは、彼女が見つめるほうを向いた。
 扉の脇には、ビアストの部下が二人いる。その二人がにやにやと下品な笑みを浮かべて、こちらを見ていた。
「…………!」
 そうか。こういうことか。監視されているのは、クラリッサにだけではないのだ。
 ここにいる限り、自分はテオドールに笑いかけることさえできない。
 ヤヤカの心に、また一滴、黒い雫が滴っていく。
「――研究所に向かいます」
 硬く、冷たい声が出た。感情を殺した、抑揚の無い声。ああ――まるでクラリッサみたいだ、と自分で思った。
「かしこまりました。ヤヤカ様」
 淡々とした実務的な響きで、テオドールが応じる。そのままヤヤカは歩き出した。振り向くことなく、ただ、一刻も早くこの場所から出ることだけを自分に言い聞かせて。

 数日間は何事もなく過ぎた。ビアストは夜間の警護もテオドールに要請した。不寝番というわけではないが、ヤヤカの寝室のすぐ横の部屋を仮眠室として割り当てられた。屋敷の内部、周囲は夜警を担当するビアストの部下たちが見回っている。
 もしもテオドールがヤヤカの部屋へ行けば、それと知れる。ビアストのそういう意図が透けて見えて、ヤヤカは堪らなく不愉快だった。
 だが。
 異変は起こった。
 結果的には、その場所へテオドールを配置したビアストの勝利だった。
 ヤヤカの部屋へ侵入した賊は、気付いて駆け付けたテオドールによって拘束されたからだ。
 配下の者たちは誰一人気付かず、テオドールの呼びかけによって事態を察するありさまだった。
「――こいつが賊か」
 報告を受けたビアストが駆け付けた。テオドールに一撃を受け気絶し、拘束されている男を見下ろす。いかにも盗賊然とした、潜入に向いた簡素な格好をしたミッドランダーだった。
「連れていけ」
 短く部下に命じるビアストを、テオドールが止めた。
「お待ちを」
「警護役風情がでしゃばるな。ここから先は俺の問題だ」
「――いえ。この男はヤヤカ様を狙ったのではありませんでした」
「……なんだと?」
「狙われたのは」
 そう言って、テオドールは手にしたものを示した。
「レース・アルカーナです」
「え!?」
「なにぃ!?」
 ヤヤカとビアスト、双方が驚きの声を上げた。
「賊はヤヤカさんの鞄の中からこれを探し出すと、そのまま立ち去ろうとしていました。明らかに、このレース・アルカーナを狙った動きです」
「どういうこと!?」
「現時点では、まだわかりません。ですので、この男から話を聞かなければならない」
「――面倒くせえな」
 ビアストが舌打ちをした。
「どっちにしろ賊は賊だろ。吐くまで責めればいいだけの話だ」
 対するテオドールの声は、揺るぎなく冷静だった。
「いいえ。この男は司直に引き渡すべきです」
「ああ!? 俺の屋敷に忍び込んだ賊を生かして返すのか!?」
「そこです」
「あ?」
 訝しんだビアストに、テオドールは淡々と告げる。
「先の暴動と、先日の銅刃団を狙った連続殺人事件で、都市内の治安強化が計られています。誰にも知られず、人を処理することが可能だと思いますか。それこそ、貴方の敵の狙いかもしれないのに」
「ぐっ……!」
「今は足元をすくわれるような軽挙妄動は慎むべきです。司直へ引き渡します。その代わり、取り調べにそちらの人間を同席させるよう、『要請』するのはいかがでしょうか」
 つまりは銅刃団に鼻薬を嗅がせて、懐柔しようという意味だ。清廉潔白そうなテオドールから出た極めて現実的な――ウルダハ流の現実的な提案に、ビアストは唸った。
「………………おう」
 ぼそりと言う。それから部下のほうを見て、てきぱきと仕切り始めた。さらに屋敷が慌ただしくなった。
「――」
 ヤヤカは。
 ビアストがテオドールに説得されているのは見物だったが、ヤヤカはそれを痛快に思う余裕はなかった。
 誰が。
 なぜ。
 これはまだ、価値があるとも知れないモノだ。たしかに、絶対的なエーテル無効化が可能だ。ただし、この板だけ。所有者に効果があるわけではない。壊れもしないため、加工もできない。希少だが、謎が多すぎて利用できない代物。
 ゆえに、これを狙う意味が分からなかった。
 しかも。
 この侵入者は、ヤヤカの元に忍び込んだ。すなわち、ヤヤカの手元にレース・アルカーナがあるとわかって――いや。
「テオ! 急いで皆に連絡を! 研究所の様子を調べて!」
「――分かりました!」
 一瞬で意図を悟ったテオドールが、リンクパールでパスファインダーズの面々に連絡を取る。これではっきりするはずだ。
 結果はすぐに出た。研究所の『裏口の鍵』を預かっていた仲間たちが急行したところ、研究所内は荒らされていた。盗まれたものがあるかどうかは、ヤヤカが行かねば分からない。
「わたしのところにあるって、わかっていた訳ではなかった……」
「“敵”もしくはその内通者は、レース・アルカーナをヤヤカさんが持ち帰る『こともある』と知ってはいても、今日そうしたかが判別できなかった人物、となりますね」
「内通者!?」
「あくまで可能性の話、ですが。最近になって採用したスタッフはいますか?」
 思い当たる節はあった。
「……いる……。『石壁』のほうの調査スタッフだけど……」
 そのとき、屋敷が一際騒がしくなった。銅刃団が到着したのだろう。ひとまず別室でビアストの部下たちに監視されている侵入者を逮捕に来たのだ。――だが。
 わっ、とさらに声が上がった。テオドールが駆け出す。クラリッサが止めるのにも構わず、ヤヤカも後を追った。
 しかし、部屋の入り口でテオドールの出した手に阻まれた。ひどい悪臭がする。
「――見なくてもいいです。賊はもう、動きません」
「え?」
 テオドールの手の間から覗き込んだ小部屋の中で、頭の無い死体が倒れていた。

 賊の身元は分からなかった。手練れの盗賊であることは間違いがなかったが、それ以上の情報がなかった。
 頭が消し飛んでしまったのだ。無理もなかった。
 あの後、賊の捕縛に訪れた銅刃団兵士とビアストの部下が口を揃えて証言した。
 『賊の頭が突然破裂した。頭があった場所に、海栗のような棘だらけの物体があったが、すぐに靄となって消えた』と。
 呪詛の類だと思われるが、詳細は不明だった。
 研究室は荒らされただけで、何も盗まれていなかった。荒らした者が誰かは分からず、内通者と目された新米スタッフは行方不明だった。
 謎の“敵”がレース・アルカーナを奪おうとしている。
 それだけは確かだった。
 そんな折、リムサ・ロミンサの巴術士ギルドから連絡があった。もとよりヤヤカが、レース・アルカーナについての知見を得ようと協力を依頼していた。その返答であったのだが。
『ギルドマスター、ク・リド・ティアが非常に興味を持っている。数日後にギルドに立ち寄るとのことゆえ、ぶしつけではあるがそちらからリムサ・ロミンサへお越し願えないだろうか』
 そのような内容だった。どうやら、巴術士ギルドではこの機会に数日程度ギルドマスターを留めておきたいらしい。放浪癖があり、滅多にギルドに顔を出さない人物であることはテオドールたちから聞いて知った。
 ヤヤカとしては是非とも協力を願いたかった。天才と噂される彼なら、新たな視点から謎を解明してくれるかもしれない。
 ところが、問題になったのは移送方法だ。謎の“敵”に狙われている現状では、旅路の途中で襲われる可能性がある。
 研究所の会議室で、ヤヤカは提案した。
「レース・アルカーナだけでも、例えばテオ……テオドールがエーテライトで運んでいくのは?」
 都市と都市を結ぶエーテライトを使ったテレポ転送技術は便利だ。しかし欠点もある。まず、体内のエーテルに一定以上の強さが無ければ使用できないこと、もう一つ、運べる荷物に限界があるということだ。一定の大きさ以下の物しか同時に運べず、転移の度にエーテルに負担をかけるため、冒険者のような強靭なものでなければ連続使用はできない。物流業として使用することは困難だ。
 だが、レース・アルカーナ一枚を懐に忍ばせてテレポを行うことは可能なのでは。ヤヤカはそう提案したのだが。
「それは無理だな」
 セヴェリアンが首を振った。
「レース・アルカーナは転移できないのですよ」
「その完全なエーテル遮断能力故に、移送の魔法が通じません。レース・アルカーナだけが残ってしまいます」
 ココブキとエミディオが説明する様子を見て、ヤヤカは確信した。
「……もう試したのね」
「ククク……もちろん」
 溜息をついてヤヤカは首を振る。それはそれとして、次善の策を考えねばならない。
「次に考えられる移動手段は飛空艇ですが、これにも問題があります」
 テオドールが説明する。飛空艇は逃げ場がない。“敵”に襲われた場合、場合によっては攻撃によって飛空艇が傷つき、下手をすれば墜落してしまうだろう。
「そうなると、ヤフェームに行くときに使っているルート……ベスパーベイからフェリーでリムサへ、というルートだけど……。ここは移動時間が長い分、余計に襲われない?」
「ええ。襲われるでしょうね」
「それじゃあ……!」
「策はあります。レース・アルカーナの移送を手練れの冒険者に任せ、人間と各種の資料は飛空艇とエーテライトを使用して分かれて移動するのです。これなら、ヤヤカさ……ヤヤカ様や、他のスタッフが戦闘に巻き込まれません」
「なるほど。“敵”はどうやら、レース・アルカーナの研究資料には興味がなく、あくまでレース・アルカーナそのものを欲しがっている節がありますからねえ。冒険者への依頼を少しおおっぴらに行えば、……クックック、“敵は”そちらへ向かう、というわけですか」
「その通りです」
 ココブキの指摘に、テオドールは頷いた。
「でも、そこは誰が担当するの?」
 ノノノたちがビアストの過去を探るため、リトルアラミゴへ行っていることをヤヤカは知っている。昨夜リンクパールで知らされているのだ。
 ヤヤカの疑問に、テオドールは微笑んで答えた。
「手練れの冒険者を一組、知っています。ちょうど今、ウルダハに来ているのです」

(七章に続く)

※ストーリーとしては0章(プロローグ)がこの直後の話となります。六章後半→0章→七章です。
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