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Juliette Blancheneige

der lebende Schild

Alexander [Gaia]

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『Mon étoile』(第二部二章後編)

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2-3

「はッ!」
 テオドールが先制の一撃を繰り出す。
 踏み込みも速度も申し分のない突きだったが、それはレース・アルカーナには届かない。その手前で青白い光を伴った障壁に阻まれる。
「これを剥がさねば本体に辿り着かないのか!」
 驚愕したテオドールに、レース・アルカーナが短い光条を放つ。盾で防ぎながら、テオドールは球体を回り込んだ。敵視は奪えているようだ。定石通り、敵を挟んで仲間たちと正対する位置を取る。もっとも、この金属球に後方や側面の概念があるのかは分からない。
 すかさず、ノノノの火炎魔法が炸裂する。メイナードの槍が奔り、障壁を削り取っていく。
「全開でいくぜ! 手綱ぁ離すなよテオ!」
 メイナードが吠えた、そのとき。
 ぶうん、と低い振動音がした。
 メイナードとノノノ、二人の頭上に、赤い光が灯った。先端を下にした円錐形の光だ。
「あ?」
 メイナードがレース・アルカーナの側面に回り込むと、光も追随する。動くのが嫌なノノノが不機嫌そうな顔で横にずれるが、こちらも同じくピタリと追随してくる。 
「なにこれ」
「メイナード! ノノ! 距離を取って! 照準されてる!」
 気付いたリリが叫ぶ。二人が慌てて離れ始めたところで、赤い光は消失した。次の瞬間、二人が立っている地面に黒い魔力塊が発生する。風が逆巻いた。地より天へ、空気が吸い上げられる。
 思わず見上げた彼らは、上空に空間の歪みが生じているのを見た。
 そこから、ルガディン男性ほどの大きさの、灼熱した岩の塊が落下する。
「な……!」
 絶句したメイナードが慌てて駆け出す。ノノノはいち早く、移動魔法でリリのところまで移動していた。
 燃える岩が、地面に激突する。爆発と衝撃が、パスファインダーズの面々に容赦なく襲い掛かった。
「――ッ!」
 全員が等しくダメージを受けた。壊滅的にならなかったのは、範囲攻撃と予測したリリが、すでに治癒魔法の詠唱を開始していたからだ。負ったダメージが即座に回復する感覚はかなり不快だが、そんなことを言っていられる状況ではなかった。
 爆破の衝撃で土砂が舞う。
「何かいる」
 ノノノが言う。その言葉通り、隕石の着弾点だった場所から、異形の魔物が現れた。エレゼン男性よりも大きい立方体の岩が、地面より少しだけ浮遊している。その壁面には、巨大な目が付いていた。瞼を有する不気味な目だ。
「雑魚処理! 各個撃破が難しそうならこちらへ牽引!」
「応!」
 テオドールの指示に、メイナードとノノノが二体の魔物へそれぞれ正対する。結果的には、テオドールの指示は正しかったと言える。この魔物は範囲攻撃を連発した。体力は然程でもなく攻め手単体でも落とせる程度だったが、攻撃力は高かった。密集させ、レース・アルカーナとまとめて処理をするにはリスクが高かった。だがそれでも、攻め手二人がダメージを負ったことには変わりない。レース・アルカーナの放つ破壊光線に耐えるテオドールだけではなく、二人も癒さねばならないリリに負担が集中した。
「くれくれ!」
 ノノノが戻りながら治癒魔法を要求する。体力さえも魔力に変換して攻撃しているため、ノノノの体力はかなり低下していた。
「うん!」
 残魔力を測りながら、リリがノノノを癒す。
 そのとき。
 レース・アルカーナが変形した。
 逆三角錐に変形した瞬間から、赤黒い光が収束し始めていた。回避しようとテオドールが動いたとき、突然レース・アルカーナが回転した。仲間たちのほうへ。
「強攻撃! 回避を!」
 テオドールの叫びよりやや早く、レース・アルカーナは赤黒い破壊光を放った。雑魚処理から戻ったばかりのメイナードが横っ飛びで躱す。ノノノは元より射線外だ。だが。
 詠唱中のリリは躱せなかった。
「ぅあッ!」
 灼かれたリリが膝をつく。そのリリの体を、破壊光の残滓のような赤黒い靄が取り巻いている。
「リリ!」
「大丈夫です……! 被弾時、毒とスロウ!」
 自らの状態を確認したリリが報告する。仲間は全員ダメージを受けている。自分はダメージと毒、スロウの状態異常デバフを与えられている。やらねばならないことは多く、しかし出来ることは、一つずつだ。
 リリは焦りに心をくしゃくしゃにしながら、範囲治癒を発動させる。直前に迅速魔を使い、詠唱を破棄。即発動した範囲治癒で、自分を含めた味方の体力を回復させて戦線を維持。それから、自身のデバフを解除するためにエスナを詠唱した。
 次の瞬間だった。
 全員の頭上に、ライトブルーの四角い立方体状の幻影が出現した。立方体には、子供の遊戯や賭け事にも使われる骰子(さいころ)の目のような光が灯っていた。“目”は六を差している。全員がそれを認識したとき、“目”は一つ減った。五だ。
 これがさっきと同じ何かの攻撃の照準だとしたら、密集は危険だ。
 けれど、強力な単体攻撃の合図、もしくはいつの間にか仕掛けられたデバフのカウントダウンだとしたら。
 複数の回復魔法を重ねていくしかない。
「集まってください!」
 迷いながらもリリが声を上げ、自分はもう一度エスナの詠唱をする。“目”は三まで減っていた。
 ノノノが到着する。レース・アルカーナから離脱してリリのところまで戻るテオドールとメイナードは遅れている。
 “目”が一に達したとき。
 テオドールとメイナードは走っていた。ノノノは雷撃魔法を撃ち放つところで、リリは手始めの範囲回復を唱え始めていた。
 つまり――全員が動きを止めなかった。
 直後。頭上の立方体が爆発した。
「ぐわッ……!」
「――!」
 正確には、『爆発』状に変換されたエーテルの浸透攻撃だった。防具を透過して与えられる攻撃に、全員が等しく大ダメージを受けた。
 そこへ、レース・アルカーナは更なる攻撃を加える。
 逆三角錐から立方体へ。宙を移動し、ふらつく冒険者たちのちょうど中央で静止すると、白い輝きを炸裂させた。ホーリーだ。
「ぎゃッ!」
 攻撃を受けた者を強制移動させるノックバック効果が付いた攻撃。それを受けて、全員がレース・アルカーナと等距離に離された。ちょうど、ドーナツ状の光撃が当たる距離だ。
「しまった……!」
 テオドールは身を捩り射線から逃げようとして――動けなかった。ホーリーのスタン効果を受けた身体は、ごくわずかに動いただけだ。
 ドーナツ状の光線が奔った。その一撃で、ノノノが地に伏した。死んだわけではないが、意識は失われている。蘇生魔法でなければ回復は不可能だ。
「ノノ……!」
 すでに迅速魔は使用している。この状態で蘇生魔法を唱えるのはリスクが大きすぎた。戦闘続行可能な者を優先するしかない。  
 リリがふらつきながら立ち上がる。もう、テオドールとメイナード、彼らを生かすことしか考えていなかった。魔力も、もはや枯渇している。
「おおおッ!!!」
 回復されたメイナードが雄叫びを上げて跳躍した。――ドラゴンダイブ。全力の刺突に、レース・アルカーナを防護していた魔法障壁が消失した。
「いけるぜ!」
 諦めずに闘志を高めたメイナードが仲間を――自分を鼓舞する。
 だが。
 本格的な戦闘前に放たれ、それからずっと戦場を浮遊していた青白い光の玉たち。パスファインダーズたちが触らぬように躱し、放置していたその光球たちが。
 一斉に自爆した。
 その威力は凄まじかった。戦場のほぼすべてを範囲とした爆発に、リリもメイナードも耐えきれなかった。
 ただ一人、テオドールだけが、本当に辛うじて生き延びていた。
 傷だらけのナイトが立ち上がる。
 その目は、ただひたすらにレース・アルカーナを――その裡を見るように――捉えていた。
 再び構えたテオドールに、ヤヤカの声でレース・アルカーナが言った。
「そうだ。忘れてた。きっちり殺さないとね。――わたしが自由になるために」
 ぶうん、と低い振動音がした。
 メテオの合図だ。咄嗟にテオドールは自身の頭上を仰ぐが、赤いマーカーは彼の頭上には点灯していなかった。
 周囲を見渡したテオドールは、息を呑んだ。
 それは、結界の中だが、この戦場からは離れた場所に点灯していた。人に対してよりも、遥かに巨大な光だった。
 『離れ』――つまりは、ヤヤカの両親がいる場所だ。
「だめだ!!」
 テオドールは叫んだ。レース・アルカーナに、その内側のヤヤカに届くことを願って。
「ヤヤカさん! それだけはいけない! それだけは――」
 言葉は途切れた。
 テオドール自身へめがけて、空間を歪めて灼熱した岩が落ちてくる。マーカーもなにもなく、最初からテオドールを狙った攻撃だ。隕石のスピードは速く、もはや躱せるタイミングではなかった。
 そして。
 離れのマーカーが消え、黒い魔力塊が発生した。同時に空間を歪ませ、大型の岩が赤く光りながら落下する。
 二つの爆発が、結界の内部を赤く染めた。
「やった……! あはははははははは! やった! とうとうやった! わたしは、もう自由だ! あははははははは!」
 狂ったような哄笑と。
「いやああああああああ! おとうさん! おかあさん!」
 狂おしいほどの慟哭が。
 同時に、レース・アルカーナから響いた。
 その、隙に。
 走り込んだテオドールが突きを放った。
 自身への隕石攻撃をインビンシブルで無効化したテオドールの、渾身の突きだ。
 突きはレース・アルカーナを正面からとらえた。剣の切っ先が金属球の内部へ入り込む。凄まじく高い金属音を発し、レース・アルカーナはその表面に亀裂を生じさせた。砕けた欠片が、地に落ちた。
「はああッ!」
 潜らせた切っ先を横へ薙ぐ。飲み込まれたヤヤカを救おうと、金属球を切り開こうとテオドールは踏み込んだ。
 しかし。
 レース・アルカーナの表面が輝き、無数の光線が一斉に放たれた。
 躱しきれず光線をくらい、テオドールの膝が落ちる。
「無駄だから。――じゃあね」
 冷たく吐き捨てるように、ヤヤカの声が投げつけられた。
「だめだ! 行ってはいけない!」
 血を吐きながら顔をあげたテオドールは、見た。
 結界内の空いっぱいに、灼熱の岩塊が現れているのを。
「さよなら」
 その声と共に、岩塊は放たれた。隕石の雨が、結界の内部――未だに残っていた、ブライトリリーの敷地すべてへと降り注ぐ。この家の全てを無に帰す為に。ヤヤカが愛し、よすがとした場所を蹂躙する為に。
「行くな――行くな、ヤヤカ!」
 テオドールは手を伸ばした。その手に触れたことのある小さい手を求めて。照れながら、それでもしっかりと握ってくる、愛らしい手を求めて。
 だが。
 その願いはもはや叶うことはなく。
 熱と衝撃と閃光が、テオドール・ダルシアクの意識を吹き飛ばした。

 
 目を覚ました場所は、見覚えのある場所だった。
「――不滅隊の、隊舎……?」
 正確にはそこに併設された、傷病兵を収容する治療院なのだったが、テオドールにはそこまでの見分けは付かなかった。
 身を起こしたのはいいが、酷い眩暈がする。強い衰弱状態にあるようだ。
 地面が回る不快さに耐えてから、周囲を見渡す。
 自分と同じようにベッドに寝かされた仲間たち。治療用の簡素な病人衣なのも同じだ。装備の類は部屋の片隅にまとめてある。
 あの攻撃で、よく生き残ったものだと思う。自分でさえ即死しても何らおかしくはなく、戦闘不能になっていた仲間たちならばなおのこと、“とどめ”になりえる攻撃だった。
 やがて、仲間たちも次々に目を覚ました。
「負けたんですね……わたしたち」
 リリが悄然と言った。彼女は、目を覚ましてからずっとうなだれたままだ。
「……ああ。完膚無きまでにな」
 短い溜息をついてから、メイナードがそう言って目を床に落とした。その手は、強く握りしめられている。
「どうすればいいんですか!? あんなのかないっこありませんよ!?」
「諦めんな!」
 初めて顔を上げたリリが、メイナードに食って掛かった。涙が頬から零れ落ちた。
「でも! 次やったら勝てるんですか!? 糸口すら見えないのに! ――そうだ、もっと強い人たちに任せましょうよ!」
 すがるような目で、唇を戦慄かせて、リリが諦めを口にする。
「あの人なら――光の戦士なら!」
 そう、光の戦士。アルテマウェポンを破壊し、数々の冒険を成し遂げ、三国の盟主からも信を置かれる英雄。かの者なら、レース・アルカーナからヤヤカを救い出すこともできるのだろう。
 ただし、ここにいるのなら。
「……光の戦士は行方不明だろ。ナナモ様暗殺の下手人ってことにされてるじゃねえか」
 メイナードが指摘する。光の戦士は、『イシュガルド戦勝祝賀会の直前に、ナナモ・ウル・ナモ女王を毒殺した』との咎でクリスタルブレイブより指名手配されている。罪状自体は直後に敷かれた緘口令により伏せられているが、耳聡い冒険者たちの間では公然の秘密となっていた。
 誰もがその罪状を馬鹿げていると笑い飛ばしたが、指名手配された光の戦士が行方をくらませたのは確かだ。一説によればラザハンに逃げたとも、ひんがしの国へ旅立ったとも言われているが、本当のところは誰も知らなかった。 
「じゃ、じゃあセインは!? あの二人なら……!」
 セイン・アルナックとルクレツィア・エゼキエーレ。凄腕のベテラン冒険者。特にセインはテオドールの冒険者としての師でもあり、その実力はここにいる皆が知っていた。
「……二人はすでに別の依頼を受けていますね。こちらのリンクパールに反応しません」
 すでに彼らとの直通リンクパールを手に取っていたテオドールが首を振る。それは、セインたちにも余裕がないことを示していた。
「そんな……!」
「リリ。もう他人を頼ろうとするんじゃねえ。コレは、俺たちがやらなきゃならねえ戦いなんだよ」
「でも……!」
「お話中失礼。お邪魔するよ」
 台詞と共に、開け放たれていたドアがノックされた。そこに、デューンフォークの不滅隊士官が立っていた。ミミオ・ミオ少闘士。パスファインダーズとは馴染みの士官だ。
「情報交換しないかい? 宿賃と治療費は込みにしておくよ」
「是非お願いします」
 テオドールが頷いた。こちらとしても、現況は確かめなければならない。
「結構。――こちらへどうぞ」
 後半の台詞は、廊下に立っていた人物に向けられてのものだった。ミミオ少闘士に続いて部屋に入ってきたのは、クラリッサだった。
「クラリッサさん……!」
 気にかかっていた人物の登場に、テオドールは安堵した。ヤヤカと共に屋敷に向かった彼女の姿があの場所になかったことは、死亡の可能性を考えざるを得なかったからだ。
 同じように病人衣を着て、頭部に包帯を巻いたクラリッサの顔色は悪い。もっとも、彼女の顔色の悪さは怪我によるものだけではないようだ。
 悄然と礼をするクラリッサを、ミミオが椅子に座らせる。
「彼女は、キミたちが結界内部に突入してからしばらくして、突然結界の外に現れたんだ」
 それを、その時点で到着していたミミオの部隊が保護をした、ということだった。
「私は……あの書斎に倒れていました」
 うなだれた姿勢で、クラリッサが喋り始める。
「崩れた壁に挟まれた状態でしたが、皆様が……あの、ヤヤカ様を取り込んだ金属球に向かっていったところまでは、僅かながら見えていたのです」
 言葉を区切ったクラリッサは、顔を上げた。
「ですが、突然体が青い光に包まれて……気が付けば、屋敷の外にいたのです」
「……それは」
「ヤヤカだな……」
「おそらく」
 それが、彼女の最後の理性だったのかもしれない。
「あの……そもそも、どうしてあのような事態に? クラリッサさんは、何を見たのですか?」
 リリの問いかけに、クラリッサは言い淀んだ。そこで、ミミオが口を挟む。
「まあまあ、彼女も疲れてる。こちらの取り調べに付き合って貰ったせいでもあるけどね。そこで、ここから情報交換だよ。クラリッサ女史の証言を、不滅隊で調べ裏を取っている部分もある。まとめてお伝えするよ。こちらの解釈に誤りがあったら、指摘してほしい」
「……わかりました」
 クラリッサが頷くのを見てから、ミミオはパスファインダーズに語り始めた。

 それぞれの掴んだ事実を総合すると、おおむねこうなる。

 ゴールデン・ビアストは“商工慰問会”で手痛い失敗をした。砂蠍衆に疎んじられたらしい。自暴自棄になった彼は、屋敷にいた自分の部下を全員解雇したという。これから始まる東アルデナード商会の攻勢の前に、自らの権益を守ろうとしたと考えられる。だが、クラリッサの証言を加味すると、心底自棄になっていたとも取れる。
 帰宅したヤヤカに対し、ビアストは強引に関係を結ぼうとした。それを止めようとしたクラリッサはビアストに返り討ちに遭う。
 そこで。
 突如現れた金属球――レース・アルカーナが、ヤヤカを取り込み始めた。ビアストは、それを止めようとして、レース・アルカーナの放った光に灼かれて消えた。
 その後屋敷に結界が張られた。同時に書斎を中心に暴風が吹き荒れ始め、破壊され倒れた壁に挟まれたクラリッサは、パスファインダーズの面々からも気付かれることなく倒れていたのだった。
 そこからあとは、先ほど語られた通りだった。
 クラリッサは結界の外へ転移させられ、テオドールたちは戦闘を開始し――敗北した。
 戦闘の過程で、ヤヤカの両親――ヌヌクカ・ススクカとキュキュナ・キュナが居住していた離れがメテオで破壊された。
 クラリッサによれば、彼らは幽閉後急速に老い、認知に障害を発症していたらしい。
「おそらく、何も分からないまま亡くなられたのでしょうね……」
 彼女にとっては恨みのある相手ではあったが、今はもう違うようだ。悼む様に目を伏せ、ゆっくりと首を振った。
 結界内にまんべんなく落下した隕石によって、ブライトリリーの敷地はすべて破壊された。本当に、跡形もなくなっていたのだという。その破壊の跡地に、パスファインダーズは倒れていた。
「これも……あるいはヤヤカさんの意図が働いたのかもしれません」
「ですよね。その状況で生きているのは……」
「さて。状況を整理したところで。まずは確認だ。キミたち、どうするの?」
「追います」
 テオドールが即答した。メイナードがリリを見たが、彼女は薄く笑って頷いた。
「しかし手掛かりは無い――おっと、忘れるとこだった」
 ミミオはポーチから金属片を取り出した。いびつなクリスタルのようにも見える、光の加減で色が変わる金属片。
「それは」
 テオドールはそれに見覚えがあった。最後の一撃で亀裂を入れたときに剥がれた、レース・アルカーナの欠片。
「倒れていたキミの手に握られていたんだ」
 ミミオから受け取ると、テオドールは改めてその欠片を見つめた。
「それの調査なりはキミたちに任せる。ただ、情報は共有したい。その代わりと言っては何だけど、不滅隊はキミたちに協力しよう」
「どういうコトだ?」
 メイナードの問いに、ミミオは目だけを動かして彼を見た。
「レース・アルカーナ、だっけ? それの脅威と危険性は十分に認識できた。ウルダハ都市内だけではなく、国内のどこへ現れても大きな被害が予想されるうえ――それが、ガレマール帝国の目に留まった場合、利用しようと彼らが考えるのは想像に難くない」
「利用? アレをか?」
「とうてい利用できるような代物ではないだろうけど、問題はソコじゃない。彼らが『利用できるかも』と考えて軍を動かすことで起きる被害のことを考えてるんだよ」
 なるほどな、とメイナードが腕を組んで唸る。
「情報はエオルゼア同盟軍で共有させてもらう。その代わり、レース・アルカーナの情報が入り次第、キミたちに知らせよう」

 その後幾つかの事務的な手続きを終えると、ミミオ少闘士はクラリッサを伴って部屋を出た。
「さてと。どうするよ」
 メイナードの問いに、テオドールは腕を組み黙り込む。先程のミミオとの話し合いの中でも、彼らが具体的にどう探し、どう戦うかの答えは出ていない。
 そのとき、ぽつりとノノノが言った。
「ごめん」
「え?」
 ノノノは目が覚めてからずっと俯き、黙っていた。それを、ヤヤカを助けられなかった後悔によるものと判断して、皆は敢えてノノノに話を振らないようにしていたのだった。
「どういうこと?」
「わたしのせいだ。わたしが、もっと早くにアレの正体を確認してたら……」
 涙が溢れ、布団を濡らした。
「おいノノノ」
「わたしの師匠。……たぶん、マハの関係者」
「な……!」
 息を呑む三人に、ノノノは語る。
「ちゃんと聞いたことはないけど。家にあったモノに、ヤフェームの遺構で見た魔法文字と似ているものがあった。見つけたときひょっとしてと思ったけど、それを言ったら冒険は冒険じゃなくなっちゃう気がして、ずっと、言えなかった」
 この冒険に答えが出てしまう。それも、ヤヤカが自力で辿り着くのでは無く、反則技みたいな結果として。
 友人に嘘を吐いている。どれほどの葛藤を、ノノノは抱えていただろうか。
 だが。
 その優しい嘘の代償は、多くの死と、友人そのものを失う結果となったのだ。
「わたしが師匠に訊いてれば。レース・アルカーナのことを話して、ちゃんと答えをもらえばよかった! そうすれば、こんなことには……!」
 とうとう泣きだしたノノノを、リリが抱きしめる。泣かないで、ノノは悪くないよ、と言いながら、リリはノノノの頭を優しく撫でた。
 泣き続けるノノノに、テオドールは優しく言った。
「まだ、遅くないですよ」
「だな。――おうノノノ」
 顔を上げたノノノに、メイナードが言った。
「連れてけよ。お前の師匠のとこ」
 ノノノはしばらく、皆を見つめていた。
 テオドールが微笑む。メイナードが、唇を片方だけ釣り上げて笑った。すぐ側のリリが、もう一度ノノノを抱きしめた。
「……わかった」
 ノノノは自分で涙を拭うと、皆に向けて言った。
「じゃあ、行こう。わたしの育った場所へ。トーラーの隠れ里へ」

(三章前編に続く)
Kommentare (4)

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

Juliette ‘s note
予兆はゲーム的なギミックだと思っているので、普段の戦闘シーンでは無いことにしてるんですが、今回は『初見だと予兆あっても混乱するだけ』を表現したくて導入してみました。
機械的な感じで、レース・アルカーナっぽいかなと。

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

Juliette ‘s note
なお、ギミックは“オリジナル”からちょっと変えてます。三角錐の大レーザーにミニマムが無かったり、圧縮世界の欠片の形状が異なったり。
この辺りは、“オリジナル”とは違う存在ゆえだと思っていただければ。

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

Juliette ‘s note
ドーナツ範囲→フレアスター
マーカーでメテオ→メテオインパクト
青い球体→オズマスフィア
スフィア放置後の爆発→エーテルノヴァ
赤黒レーザー→エクセクレイション
例の→加速度爆弾
マーカー無しの隕石は頭割りのイメージです。ペイン未使用。

Juliette Blancheneige

Alexander [Gaia]

Juliette ‘s note
ヒカセンはこの頃にはラウバーンを救出し、イゼルを探す旅に出ています。
実は手配は解けているんですが、クリスタルブレイブがそれを否定も肯定もしないまま瓦解したので、冒険者レベルではこのくらいの認識です。
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