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Juliette Blancheneige

der lebende Schild

Alexander [Gaia]

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『Sweetest Coma Again』10(2)(『Mon étoile』第二部四章) 

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10-5

 静寂が漂う、高い天井の廊下。
 壁も床も天井も、すべてが白く、磨き上げられて輝いている。
 夢幻宮、宮殿内部。
 リリたちは一路、聖母たるメリナ・コムヌスがいるであろう場所――七天の間へと向かっていた。
 リリ、ラヤ・オ、エレフテリオス、ソフィア、それからセレーネとヘカーテ。六人の白魔道士は、宮殿の奥へと進む。
 眠り続けるバティストは、修復したブリトルマティスに運ばせている。やや動きがぎこちない。修復したとはいえ、そもそもが急拵えで創成したモノだったのだ。ここまでの戦闘でかなり損耗している。修復するには本格的な整備が必要になるが、そんな時間は無かった。
 静かな廊下に、六人と一体の足音が響く。
 途中に司祭たちの妨害はなかった。それどころか、宮殿内に入ってから誰の姿も見ていない。
「誰もいない……」
 ソフィアが不安そうに呟いて、周囲を見渡した。
「手間が省ける……けど、いいこととも言い難いよね」
 応じたヘカーテが顔を曇らせる。
「どういうこと……?」
「おそらく、今残っている司祭たちのすべてが集められている。――ソムヌスに、祈りを捧げているんだ」
 ソフィアの問いに、エレフテリオスが答える。
「……祈りを捧げる、で済めばいいけど」
 ラヤ・オが厳しい面持ちで言った。
 もしも、司祭たちがソムヌスのテンパードにされていたとしたら。かの蛮神のテンパードになるということは、醒めない夢を見ながら、魂までもを蛮神に提供するという意味だ。
 それはすなわち、ソムヌスの更なる強化を意味していた。
「サイラスは、ソムヌスの力を削ぐ、って言ってたのよね?」
「はい。『奴の力が大幅に落ちるときが必ず来る。それまで、絶対に諦めるな』――と」
「何をする気かしら……」
 ラヤ・オが首を傾げる。
「……この宮殿の地下に眠る、二万人に達しようというテンパードたち。それらの祈りが、蛮神ソムヌスの強さを支えている」
 エレフテリオスが、固い声で言った。
「その祈りを妨げる方法を見つけたのかもしれない」
「……」
 エレフテリオスは明言を避けたが、それはおそらく、二万人の命を奪うことだろう。顔を曇らせる面々を敢えて無視して、言葉を続ける。
「夢幻球は今、セレーネとヘカーテ先生をここへ現界させるためのリソースとして動いている。ソムヌスとは接続されていないので、強化には繋がらない。もっとも、僕らが敗北した後なら、ソムヌスはそれを使うこともできるだろう」
「責任、重大だね」
 セレーネが噛み締めるように言った。エレフテリオスが頷く。
「地下のテンパードたちからの祈りを絶てば、残るソムヌスの強化材料は、テンパードにされた司祭たちの祈りだろう。それを止めに行くのも一つの手だが……」
「――いえ。このまま行きましょう」
 リリが断言した。
「蛮神の強化は、祈りの力だけではありません。クリスタルなどからのエーテル蓄積でも強くなります。司祭たちがどこに集められているかの情報がない中で探し回っても、その間にエーテル吸収の猶予を与えては意味がありません」
「さすがに一線級の冒険者よね。蛮神をよく知ってる」
 ラヤ・オへ頷き返すと、リリは全員に向かい告げた。
「急ぎましょう。わたしたちが遅れれば、サイラスさんの仕掛けにも、対策されてしまうかもしれません」
「うん。急ご!」
「さっさと行ってケリつけるわよ」
「そうね。これを最後にしなきゃね」
「ああ。……ソフィア?」
 エレフテリオスに覗き込まれ、ソフィアは慌てて顔を上げた。
「あ、うん!」
 皆の視線が集まる。エレフテリオスが口を開きかけたところで、ソフィアは言った。震えが残る声で、けれどもはっきりと。
「問い詰めたいことがいっぱいある。答えてはくれないだろうけど。
 ――でも、私が話をしたいのは、蛮神ソムヌスじゃなくって、メリナ・コムヌスとなんだ。
 だから。その邪魔をするソムヌスを――倒すよ」

10-6

 信者への説法に使用する講堂の一つ。
 そこで、多くの人間が眠りに就いていた。
 三百名ばかりだろうか。皆、『純潔派』の血を受け継ぐアムダプールの末裔だ。霊災から逃れるためにこの『真世界』へと籠った信者たち。その子孫である彼らは、幹部である『四善(アガトス)』や聖母メリナとは違い、生体複製を用いた延命をしていない。この閉じた世界の中で世代を重ねた者たちだった。
 彼らは今、床の上で丸くなるようにして眠っている。
 もう、二度と目覚めることはないだろう。
 彼らは醒めない夢の中で、蛮神ソムヌスを称える。女神のもたらした恩寵――絶対の平穏の中で、思い通りに生きる喜びを祈りに変えて女神に捧げるのだ。
 エーテルの儚い光が、壇上へと集まっていく。
 蛮神の姿から人へと戻ったメリナ・コムヌスは、その捧げられるエーテルを目を閉じて受け取る。
「女神が地上へ出でて、すべてを安息の眠りへと導いた時。眠れるすべての魂は女神と合一し、完全なる調和をもたらす。
 ――諸君はそのさきがけとして、信仰の先達として、世界に範を示して見せたのだ。敬服の念をここに表する」
 乾いた声が、講堂に響いた。
 『四善』の一、『恪勤 (かっきん/ディリジェンス)』カリアス・フェトファツィディス。
 老年に差し掛かろうかという男は、しばし瞑目すると、壇上へと声をかけた。
「猊下。よろしゅうございますか」
「ええ」
 ゆっくりと頷いて、『純潔派』の教主にして最高位たる現人神『聖母』である女――メリナ・コムヌスは目を開いた。
 エーテルの輝きが、彼女の中へと吸い込まれていく。
 高く古風に結い上げた灰色の髪。カリアスと同じく、老年に入ろうかという年齢のはずだが、ずっと若く見える。肌の張りも、姿勢も、衰えと言う表現から遠いところにある。
 教主であり、神そのものであるという立場にも関わらず、メリナの纏うローブは司祭たちのそれとあまり変わらなかった。装飾の類はなく、服だけを見るならばカリアスのほうがずっと派手だ。もっとも、一般的な基準で言えばカリアスのローブと首から提げたストラは派手とまではいかない。
「“彼ら”はそろそろ七天の間に達するでしょう。こちらへ」
 カリアスがかざした手の先で、紫暗の光が渦巻いた。次の瞬間、渦巻いた光は拡大し、人が通り抜けられるような円形の“扉”へと変化した。
「『深淵の司祭』から返答は?」
「依然返答はありません」
 カリアスが首を振る。
 その異名をもつアシエンが、すでにこのとき遥かなる魔大陸において消滅している――とは、二人には知りようの無いことだった。
「……『清慎(マデスティ)』は」
 壇上から降りながらメリナが問う。
「『断罪者』を使ったようです。以降、反応がありません」
 無言で頷く。
「『公平(インパシアリティ)』は」
「逃走後、行方がしれません」
 メリナは薄く笑った。あの子の判断ではなさそうですね、と小さく呟いた。
「では、六人を『説得』するのは」
「猊下と、私です」
 言いながら、カリアスは恭しく礼をする。その横を、メリナが美しく歪みのない歩き方で通り過ぎ、“扉”をくぐった。
「遥か昔」
 後に続いて“扉”をくぐったカリアスへとメリナは言う。
「のちに『純潔派』と呼ばれる会派を作ろうとしたとき」
 高い高い天井を持つ、巨大な広間。数千人が集めれる規模の巨大な空間だ。七天の間と呼ばれる、聖母の謁見場。
「そこにいたのは、私と貴方――二人きりでした」
「はい」
 広間の最奥に階段と玉座がある。そこへは行かず、メリナは広間の正面――巨大な扉のほうを向いた。
「また、二人からですな」
 口調を崩したカリアスに、メリナがくすりと笑う。
「ええ。でも、今度はすぐに二人ではなくなりますよ」
「御意」
 微笑み返したカリアスは、すぐに表情を消した。普段通りの、冷厳とした『恪勤』の顔で、正面の扉を見る。
 巨大な扉が重々しい音を立てて開いた。
「ようこそ、七天の間へ」
 メリナが言った。両手を拡げる。旅から帰還した我が子を迎えるような、柔らかな慈しみの笑みと態度。
「話をしましょう。――私の子供たち」

10-7

 巨大な広間に入ってくるのは六人、加えて一体とそれに抱きかかえられた一人。
 対するは二人。
 両者は、彼我の距離二十ヤルムほどで対峙する。
「私の学園で学んだ子供たち。私が育てた子供。そこに隔てはありません。皆、愛しい私の子供たちです」
 微笑みを浮かべ、メリナ・コムヌスが告げる。ソフィアが、思わず、というふうに口を挟んだ。
「……攫ってきた子供でも?」
 メリナの笑みは崩れない。
「それでもです。今のあなたへと至るよう導いたのは私。私が育てたことになんら変わりはありません」
「……!」
 鼻白むソフィアの肩へ励ますように手を置き、ラヤ・オが加勢する。
「よく言うわ。この子の記憶も個性も、全部消し去るつもりだったクセして!」
「いいえ」
 即座に否定が返る。
「消し去りはしません。なぜなら、ソフィアは地上における私の依り代となります――つまり、私と合一するのです。消えるわけではありません」
「ごう、いつ……」
 それが同等の合一化などではないことは、少し考えれば誰にでもわかることだ。巨大な『蛮神』と言う意志と一個人が等質であるはずがないのだ。
 つまりは、合一などはありえない。
「それを彼女が望むとでも?」
「ええ」
 エレフテリオスの追及にも、メリナは即座に返答した。一切の躊躇がない。
 まっすぐに、ソフィアを見つめる。
「望まない、ということはありません。そうですね? ソフィア」
 その言葉に。
 魔法的な効果や精神侵略の能力が込められていたわけではない。
 けれども、名を呼ばれたソフィアは感電したように身じろぎをして――震え始めた。
「……!」
 怖い。
 心底怖い。
 ソフィアの中で、メリナは圧倒的な存在として立ちはだかっている。
 震え、汗びっしょりになりながら。
 それでも、目を見開いて、唇を噛む。レフの手を握りそうになった手を握る。自分だけで、ぎゅっと握る。
 皆を見る。皆が頷いている。
 それでいいんだ、と。自分の言いたいことを言っていいのだと。
「――いやだ」
 掠れて揺れる声でソフィアは告げる。喉が渇く。泣き出したい。
「私は、もうあなたの子供じゃない。貴方の言うことは聞かない。自分の意志で生きて、自分の意志で――あなたに反逆する!」
「……」
 メリナはソフィアを見つめる。
 涙を浮かべながら、それでもメリナをきっと見据える少女を。
 そして。
 にっこりと笑った。
「その強さ。その心の強さこそ、あなたに足りなかった資質。よく、目覚めさせてくれました、『徳義』」
「え……?」
「貴方は、何を……」
 否定されると思ったソフィアも、慮外の称賛を受けたエレフテリオスも、二人ともが困惑に眉をひそめた。
 メリナはそれには一切目を向けない。
 細い指を顎に当て、思案顔になった。
「けれど困りましたね。現世における私の依り代は、リリにしようと思っていたのですよ。それがここへきてソフィアがよき強さを示した……迷います」
「はあ?」
「学園長、あなた今さっきソフィアは依り代になる、って」
「そもそもわたしもお断りですが」
「勝手に決めないでよう」
 ラヤ・オたちの抗議を受けても、メリナは全く耳を貸していなかった。目を伏せ黙考していた彼女は、不意に顔を上げると、晴れやかに微笑んだ。
「決めました」
「え?」

「ソフィアも、リリも、二人とも取り込みます。二人の依代がそれぞれ私を宿し、現世の調伏を進める。より早く、全人類を眠りに就かせることができます」

「は……!?」
「何……言ってるの」
「蛮神だからって、そんなことは」
「できますよ? 私には、祈りの力がある。千五百年の備え、注がれてきた想いがある。できますとも」
 その言葉の終節と同時に、メリナの裡から魔力が迸った。放射されるエーテルの圧力で、彼女の足元から八方へ、床におびただしい亀裂が走った。
「……!!」
 双眸が輝く。白い光の風が、リリたちへと津波のように押し寄せた。魂を灼かんとする蛮神のエーテル。
「させません!」
 呼応して手をかざしたリリの前に、光の壁が現れた。白い光の風を、金色の光の壁が打ち消していく。
「貴方の……ッ!」
 メリナの――蛮神のエーテル圧力をなんとか耐えながらリリが叫ぶ。
「貴方の言葉にはもう誰もついてこない!」
 風をすべて受け切り、光の壁も消える。その疲労感にリリは戦慄する。向こうはおそらく肩慣らし程度に放ったエーテル放射。こちらの防御は息切れしかかるほどの疲労。
 だが、それでも。
 リリは前へ踏み出して問う。
「貴方は、誰もいない世界でひとり佇むつもりですか!」
「ええ」
 またも即答。メリナは迷わない。それは、もはや対話による交渉が不可能な証左でもあった。
「だって、そうしなければ、人間は未来永劫争うでしょう?」
 空間の明度が増した気がする。空気そのものが、光属性へと傾きかけている。
「人間とはそのような欠けた存在。――ならば。とこしえの眠りについてもらうしかないではありませんか」
 彼女の体が輝き、そして放たれた光が像を結ぶ。
 姿が変わる。
 背より大きな翼の生えた、美しい女性。翼は、今は閉じている。両目は伏せられており、額に縦に長い切れ込みがある。四本の腕のうち上の両腕が人を抱くように前へ差し出され、下の両腕は長い杖を握り持っている。
 蛮神ソムヌスが、顕現していた。
『私の孤独と、世界の調和。ひきかえにするなら安いもの』
 女神の足元で、カリアスが仮面を付けた。銀の仮面には、悲嘆に嘆く人の顔に見える切れ込みが入っている。
『地下に眠るテンパードたち。魂を捧げた司祭たち。そして、夢幻球を通じ受け入れる、魔大戦の犠牲者たちの魂!!
 それらすべて、そしてこの身この魂のすべて! 一切を賭けて、すべての人間を安息の眠りに招きましょう!』
「夢幻球は使わせないし、過去への扉は開かせない。それが、私にできるたった一つの恩返しだよ、学園長」
 ヘカーテが構える。それに頷いて、リリの隣のセレーネが拳を突き上げる。
「とーぜん、リリを乗っ取らせたりしない!」
「ソフィアを地上へ還します。そのために、すべての禍根をここで断ちます」
 ソムヌスとカリアス、それぞれを見据えてエレフテリオスが宣言した。
 そのエレフテリオスと頷き合ってから、ソフィアが言った。
「やっぱり、貴方を倒さないとダメなんだね、女神ソムヌス……! 貴方を倒して、“メリナ・コムヌス”と話をするんだ!」
 その叫びに目を細めて微笑んでから、ラヤ・オが一歩前へ出て杖を振るった。
「ってコトで、こっちは全員やる気だから。――叩きのめしてやるわ、完膚なきまでに!」
『いいでしょう』
 蛮神が一度翼を振るった。光の粒子が燦然ときらめいて飛び散る。
 『あなたたちはすべて、私の糧。私の魂を満たす供物。完全なる調和世界の完成を、私の中で見届けるのです……!』

10-8

『完全調和』
 高らかに宣したソムヌスが、テンパード化をもたらす光る風をもう一度放つ。
「く……っ!」
 リリの『超える力』が黄金の壁を生み出す。が、先ほどよりも生成が遅い。連発できる技ではないのだ。
「……!」
 光る風が壁を乗り越えようとしたとき。
「だいじょーぶ!」
 リリの手を握って、セレーネがもう片方の手をかざした。魔術的には、リリとセレーネ、ヘカーテは、『セレーネ・デュカキス』のソウルクリスタルを基点として、互いの魂を結び付け合っている存在だ。
 リリやセレーネがこの戦いで国家公認白魔道士と同等の力を発揮しているのは、ヘカーテの力を受け取っているから。
 そして。リリの『超える力』によって救われ、魂を結び合った彼女たちは『超える力』の具現化に等しい。
 セレーネから放たれた黄金の輝きが、リリの創った光の壁を急激に伸ばした。蛮神の意志と光の加護が激突し、互いに眩く輝いて消える。
「ありがと!」
「こんなの朝飯前! どんどんいくよ!」
 笑い合う二人を少しだけ見つめ、それからラヤ・オが気合を入れた。
「いくわよ。手加減なし。ぶっ飛ばしていくわよ」
「かしこまりー」
「わかった!」
 ヘカーテとソフィアが応じる。同じく応えようとしたエレフテリオスは、しかし次の瞬間厳しい顔で言った。
「すまない。ソムヌスは任せる!」
「え?」
 問う間もなく、エレフテリオスの操る“糸”が無数に集まり、リリとセレーネの前に壁を作った。
 そこへ加えられる斬撃。
 カリアスの両手鎌だ。長大な柄と、大きく禍々しい刃を持つ『光臨武器』が、同じく『光臨武器』である“糸”とぶつかり激しいエーテルの光を放った。
 仮面を付けた『純潔派』最長老の男は、躊躇なくリリとセレーネを殺しに来たのだ。しかも、一瞬で間合いを詰めた。エレフテリオス以外の者は誰もカリアスの接近に反応できなかった。恐るべき手練れだ。
「ちッ!」
 エレフテリオスが、壁状により合わせた“糸”を崩す。“糸”はカリアスへとなだれ込みながら、自切して小型のラウンドシールドほどの円を作る。そして“糸”はエーテルで無数の刃を自身の周囲に生み出す。あっという間に、無数の飛来する回転刃が出現し、カリアスへと殺到した。
「ほう」
 小さく呟くと、カリアスが横へと――ソムヌスより離れる位置へと逃れる。
「あの男は僕が倒す。あとで合流する!」
 短く告げると、エレフテリオスは“糸”を操りながらカリアスを追う。
「レフ!」
 心配そうに叫ぶソフィアの背中を、ラヤ・オが強めに叩いた。
「気を散らさない! いい? レフが援軍に来るのを待つんじゃないのよ? あんたがレフの加勢に行くの! それくらいの気概でいなさい!」
「……! わかった!」
 決意も新たに頷くソフィア。頷き返すラヤ・オに、ヘカーテが苦言を呈した。
「めっちゃ無茶ぶりするじゃん……」
「うっさいわ! 本気だかんね!」
 噛みつく勢いのラヤ・オに肩を竦め、ヘカーテは後方の二人――リリとセレーネのほうを向く。
「はいはい。じゃあお二人、防御と回復はお任せするわね」
「うん!」「はい!」
 同時に応える二人へ微笑む。それから、残りの二人――ソフィアとラヤ・オへ告げた。
「キミたちは全力で攻撃だよ!」
「とうっぜん!」「いこう!」
 その声に満足げに頷きながら、ヘカーテは呪文を詠唱する。
 彼女の目の前に現れた魔法陣から、一振りの両手剣が出現した。剣はいわゆる暗黒騎士の使用するそれよりも細身で華奢だ。柄が長く、剣というより杖に見える。
 それをヘカーテが手にすると同時に、彼女の装備もローブではなく、より動きやすい服装に変化した。
「なにそれ……? 剣? 杖?」
 ラヤ・オの問いに、ヘカーテはふふ、と笑ってから答える。
「これはね、『魔杖(まじょう)』。第二星歴に存在したと伝えられる幻のジョブ、『魔法剣士』が使ってた武器。――の、見様見真似複製品。本物の魔杖は一種の魔法生物で、意志があって自らの使い手を選んだんだって」
「よく調べたわねあんた……」
「魔法剣士はどうも盾役もできたらしいのよね。なので、必要になるかなと思ってね!」
 ヘカーテは長い柄を持つ細身の剣を器用に操って見せる。
「あくまで白魔道士ベースの真似っこだから、再現できてるわけじゃないけど。でも敵視は取れると思うので、任せて」
「はい。支えます!」
 答えるリリに微笑みを返してから、ヘカーテは剣を一振りして気合を入れる。
「さあ、いくよ!」
 蛮神目掛け、ヘカーテが駆け出した。あとの四人も、それぞれの位置へと駆けていく。 

 最後の決戦が、始まろうとしていた。

『Sweetest Coma Again』10(3)へ続く

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