タムタラの墓所、古代都市ゲルモラ時代の墓所の入り口は、どんよりと深い闇に覆われていた。
入り口に通常なら立っているであろう衛士の姿は無く、墓所の入り口が口を開いている。
カザネはアイアンスパタを手に中へと足を踏み入れた。
暗闇に目が慣れてくるとわかったのは、ここは巨大な縦穴らしいということ。
円柱形の穴の側面部に遺跡が掘り込まれている。
闇の底は深くてどこまで続いているのかわからないほどだ。
人の気配こそないが、なにかが蠢くような音はどこからともなく響いている。
奥へと進むと、そこにもまたマイトの死骸が転がっていた。
暗闇のため凶器が何であるのかはわからない。が、飛び散った体液はまだ乾燥していない。
…近い。
縦穴から側面を外へと、遺跡の内部へと道は続いている。
進むと誰かの息遣いが聞こえてきた。
薄暗闇の中、誰かの背中が目に入る。
カザネより一回り大きな巨体。隆起した筋肉は力強さを感じさせる。
いや、この場合は凶悪さも、か。
手には重そうな得物、大きな斧を構えている。
鎧という鎧は身につけず、その身を構成する筋肉こそが頑丈な鎧であるかのような、
ルガディン族の大男。
斧…。
そして、つぶれたマイトの死骸。
(あいつが八つ裂きグレッグか!)
カザネは剣を身構えた、
その殺気に反応したのか、ルガディンの斧男はゆっくりと振り返る。
ばっ、とその巨体とは裏腹に俊敏な動きで一歩後ろに飛びのくと、
男は手に持った得物を構えた。
男は手に持った斧を、無造作にカザネへと投擲する。
左手の盾では防げそうに無いためにカザネは右手の剣で打ち払う、
がつん、という重たい衝撃が身体に走る。
金属同士が打ち合わされる、嫌な音が辺りに響き渡るのとほぼ同時に、
男の突進がカザネに迫っていた。
回避が間に合わず、壁際まで弾かれる、その間に男は斧を再び構える。
斧は重量武器、剣に比べれば鈍重な動きでしかない、とカザネは読み、
ならば手数で攻める、と、手の甲の盾を男へと投擲する。
男が斧で打ち払ったのを見計らって、カザネの斬撃が男へと迫る。
一合、二合、三合、
カザネの剣と男の斧が打ち合わされる。
男の技量は決して低くは無い、
だが、カザネとて自身の技量には万全の自信を持っている。
カザネの剣速が、徐々に男を上回り始める。
そして、再び打ち合わされる武器と武器、
男はその膂力によってカザネの剣ごとカザネを強引に後ずさらせると、
「ウォォォォォッ」
という怒声と共に全身に力をみなぎらせた。
一撃必殺、無二の一撃、
全身の全ての筋力、技量、意思、その全てを振り絞った、全力の一撃。
盾で受ければ左手ごともっていかれてもおかしくない、
ならば、全力で迎撃するのみ。
剣で受け流す、そして、必殺の盾の一撃、シールドスワイプを叩き込む。
カザネは地面を蹴って男へと疾走する。
振り下ろされた斧を横からの斬撃が迎撃する。
ごきん、と、嫌な音が、辺りに響き渡った。
ひゅんひゅんと、音を立てて、地面に突き刺さる
男の一撃は受け流すことはできた。
しかし、代償は大きかった。
手に持っていたアイアンスパタの刀身が、その真ん中より折れ砕けてしまっていた。
男はそれを見て、再び斧を構える。
この刀身では、次の一撃を防ぐことはできないかもしれない。
カザネは次の一手をどうするか、頭の中で思考を続ける。
状況は、決して好ましくなかった。
リセはまだぽやんとした薄眠りから完全に目覚めきっていなかった。
あたりを見回すがカザネもいなければアルもエーヴェルもいない。
荷物はおいてあるので置いていかれたわけでもないとおもうが…。
大きく手を伸ばし、目を覚まそうと身体に力を込める。
ふと、あたりで何かが動いた気がした。
見回しても何もおかしなものは存在しない。
ただ、草むらが広がっているだけだ。
草むらの中で花がゆらゆらとゆれている。
ただの花か、と、再び大きく伸びをして、身体についた土や埃をはらう。
と、振り返ると何かおかしい。
草むらの花が、さっきよりも近づいている気がする。
それだけじゃない、この花、普通の花より一回り大きい。
はっ、と頭にそれが思い浮かぶ。
ローズリンク、それは植物の身体を持つ魔物だった。
植物とはいえ、決して動けないわけではない、
蠢く触手のような根を持ち、地面から離れて活動する、
そして、ひとつの場所の養分を吸い尽くすと、新しい土地の養分を吸うために移動するのだ。
リセはポーチにつけていた片手杖を手に取る。
戦闘体勢にはいったことを気づいたのか、ローズリンクの動きが変わった。
ローズリンクの花弁の中から、硬質な彼らの種が、弾丸のように打ち出される。
とっさに魔法障壁プロテスを発動させるが、撃ち出された種はプロテスの光の壁すら突破し、
横に倒れこむように身をかわしたリセの真横を通過する。
手の中の杖に意識を集中する、周囲の自然に呼びかけて、作り出すのは風の刃。
振り上げた手に握られた杖の先端から、幾重もの風の刃が幻出する。
ローズリンクの葉を切り刻む風の刃だが、ローズリンクは身を震わせると刃を打ち払った。
しかし、すでに次の一手は準備が出来てる。
大地に交感したリセは片ひざをついて、地面に杖の先端を突き立てる。
その先より大地が隆起してローズリンクへと迫る。
ローズリンクの真下の地面が突如割れ、内部より巨大な杭となった石柱がその身体を貫く。
さらに続けざまにもう一度地面へと杖を突き立てる。
再び大地を亀裂が走り、土砂がローズリンクの身体を打ち付ける。
ローズリンクはぐったりと地面にその身体を横たえた。
「ふー…。それにしても、カザネもエーヴェル姉さんもアルさんもどこにいったんだろう…。」
リセは荷物をまとめると彼らのあとを追いかけるようにその場を後にする。
一方そのころ、
エーヴェルはチョコボを疾走させていた。
ちらり、と後ろを振り返る。
…まだついてくる。
がしゃ、がしゃ、がしゃ、と音を立てて、迫るのは巨大な鎧だった。
おそらくあれは妖異デュラハン。
巨大な両刃の剣を持つ巨体の妖異とこんな場所で遭遇するとは完全に想定外だった。
異界ヴォイドの妖異が鎧に宿った、この生命とも非生命ともいえない怪物…。
見てしまったのだ、この妖異が街道を行く人を無残に惨殺するその瞬間を。
そのときから、この妖異の次の標的は自分になってしまったようだ。
チョコボの足をとめて、弓に矢を番える。
狙い違わず鎧の隙間へと矢は突き刺さるが、妖異の活動を阻害することもできなければ、
大した手傷を負わせられているとも思えない。
再びチョコボの手綱を手にとり、疾走を開始する。
カザネならばどうにかできるだろうか、とは思うが、そちらへの道はデュラハンが塞いでいる。
ならば、と、道をそれ向かったのはタムタラの墓所の上にあるひらけた場所だった。
なんとか、こいつを振り切らねばならない。
…そして、なんとかしてこれをとめなくてはならない。
おそらく、こいつが例の八つ裂きグレッグの真犯人なのだろう。
どういう理由で召喚された代物なのかはわからないが、
これを止めなくてはこの森にさらなる被害を生むことは間違いない。
エーヴェルは一度に3本の矢を手に取る。
続けざまに放たれた3本の矢、
それは正確に同じ場所を穿つが、それでもデュラハンの勢いは衰えない。
意を決して、エーヴェルはチョコボの背から飛び降りる。
このとき黒衣森で何がおこっていたのか、
その全ての真相を知るものは、まだ誰もいなかった。
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