Charakter

Charakter

  • 3

<外伝> 風と猫と

Öffentlich
ずっと昔に、涙は枯れ果てた。
大地に伏せった身体には、もう力が入らない。
どこまで歩いたのか、どうやってここにたどりついたのかわからない。
そもそもここがどこなのか、自分にも不鮮明だ。

目を閉じると、まるで今おきていることのように思い出せる風景がある。
自分の手を引く両親、赤く染まる空、轟音とともに降り注ぐ炎の雨、
大地を揺らす振動と共に、どこかで悲鳴が上がる。
安全な場所などどこにもなく、ただ、少しの気休めでも安全そうな場所を求めて両親は私の手を引く。
走る、走る、走って、走って、
気付いたときにはその手がするりと離れて、
手を伸ばした先で、再びの轟音が響く。

それからどうなったのか、私にはよくわからない。
気付いたときには、焼け焦げた衣服を身にまとい、ふらふらとした足取りで、
どこへとも知れずさまよい歩いていた。

いや、ちがう、探していたのだ、あの時、離れてしまった両親のことを、
伸ばした手の先にいたはずのあの人たちのことを。


手を伸ばす。
だけれども、その手は誰にも届かない。
倒れた人、苦しむ人、泣き続ける子供、そして、動かなくなった人たち、
この世の不条理がそこにはあふれていて、
きっと、自分のこの境遇もそんな不条理の一つなんだろうと、そう思った。
そして、その不条理に抗うことは、ただの子供だった自分にはできそうになかった。
諦め、ではないけれども、浮かんだのは両親への謝罪の言葉だった。


両親は変わった人たちだった、とそう思うことは今でも変わらない。
父は狩猟民族であるミコッテという種族に生まれながら、狩りに生きることを良しとせず、
商人として働くことを生業とした変わり者だ。
もともと男性の生まれる率の少ないミコッテという種において、
6男という5人の兄を持つ時点でも少々特殊な環境なのかもしれない、
その環境が父という人を作ったのか、それとも父の両親、私の祖父母の影響なのかはわからない。

父は部族で言えばムーンキーパー、ミコッテという種族はその性質から2つの部族に分類されるが、
ムーンキーパーは夜行性の性質を持つ部族である。
母は、というと、正反対の性質を持つ、サンシーカーの部族の出である。
サンシーカー、ク氏族の子として生まれ、どういった経緯でそうなったかは知らないが、
部族の壁を越えて結婚、私がうまれることとなった。

…そんな生まれなものだから、なのか、
サンシーカーの子供たちの仲間に入ることもできなければ、
ムーンキーパーの子供たちの輪にも入れてもらえず、
なかなかに孤独な幼年期を過ごしたのは確かである。

まぁ、その理由の一つに、自分の名前のことがあるのは…仕方が無いことなのかもしれないが。

サンシーカーの命名には簡単なルールが存在している。
まず、自分の氏族名、そして、自分の名が続く、
最後に、男性は群れの主であるヌン、または、自分の領土を持たないティアを名乗る。
女性のファミリーネームは父であるヌンの名前である。
サンシーカーの氏族は一人のヌンを頂点とした父系社会が構成されているのだ。

一方、ムーンキーパーには氏族という概念が無い、
ムーンキーパーは母を基点に物事を考える母系社会を構成している。
ムーンキーパーの女の子は、母のファミリーネームを受け継ぐ。
その母も、きっと祖母のファミリーネームを受け継いでいる、
こうして続くのがムーンキーパーという種である。
ムーンキーパーの男の子のファミリーネームは、自分がその家で何番目の男の子なのか、で決まる。
例えば父は六男なのでデア(6男)だ。

さて、この事実からわかるかもしれないのだが、
…私という少女が生まれたとき、父と母はそうとう悩んだそうなのだ。
というのも、母としてはサンシーカー的な名前を付けたかったのだし、
父としてはムーンキーパーとしての名前を付けたかったわけで、

こうなると出てくるのがやっかいなことに、
母がサンシーカーとして名前をつけようとすると、
私はまず部族を名乗らなくてはならない。
そして、ファミリーネームは父の名前を名乗ることになる。

父がムーンキーパーとして名前をつけようとすると、
私は母の苗字を名乗らなくてはならなくなる。が、それは、めぐりめぐって、母の父の名前になってしまうわけで。

なら、どうするか、と折衷案として出されたのが、
ク・ロネコ・デア、というこの奇妙な名前である。
ク氏族の血に連なる、6男の父の子のロネコ、これが正式名称なのだが、
…長ったらしいのでロネコ、またはロニェで呼ばれることが多かった。

…それが、私という、…たぶん今まさに失われようとしている、そんな一人の少女の名前だった。

手を伸ばす。
きっと、この手が地面についてしまったとき、それが終わりなんだろうな、と私は考えていた。

あのとき、両親とはぐれてから、何日が経ったのだろうか。
手持ちの食べ物などなく、お金もない、助けてくれる人などどこにもいない。
お腹がすいた、という感覚はどこかもう遠い。
全身に力は入らない。頭のなかはうすぼんやりと、すでに思考はまとまっていない。
だからこそ、こうしてさまざまなことが浮かんでは消えるのだ。

そんな身体が、急に自分の意志に反してひっくり返される。
妙な形で硬直していた身体を、その身につけている何かを奪わんと、誰かの手が体の上を這ってゆく。
その手が首からかけていた母からもらった首飾りを見つけて止まり、それを外そうと首に手を回す。
もう、私にはそんなもの無用だった。
ただ、母との思い出が無くなってしまうのは、少しだけ辛かったが。
枯れたと思っていた涙がひとしずく、ぽとりと頬を伝わってこぼれた。

が、次の瞬間、自分を抱えていたその手が急に私の身体を地面に投げ出した。

小さな悲鳴をあげて、私をつかんでいた老婆は走り去る。
何が起こったのか、私にはよくわからない。
ただ、次の瞬間、私の身体に誰かが触れたのがわかった。

「大丈夫かい?」

もはや、答える気力も残っていなかった。ただ、ただ、手を伸ばす。
微かに見える空の下、見えた彼の顔は、とても悲しそうだったことだけを…よく覚えている。

…私は救われた。
それはほんのきまぐれで、偶然で、ほんとうに奇跡のような巡り会わせだったのかもしれない。

彼の手当ての元、私がまともに動けるようになるまでに、数日を要したことは確かだった。

彼によって救われたのは、私ともう一人の少女だった。
紅の瞳に朱の髪を持つ少女は未だ目を覚まさず、それでもなんとか命だけは繋ぎとめていた。

彼の名はカザネ。

どうして自分を助けてくれたのか、この少女を救おうとしているのか、わからない。
ただ、自身も決して裕福ではなく、彼もまたこの『霊災難民』の一人であることは確かだった。
そんな彼が、自分とは違ったことは、
彼は腰につけた剣をもって、獲物を狩り、その革や肉を売って、
3人分の食料と薬を確保できたことだろう。

そんな彼がいてくれたから、きっと今の私はいるのだろう、そう思う。


ウルダハの町に出て、彼が取ってきた革や肉、
そしてそれを調理加工したものを販売することを
自分が売り子となってはじめたのはそれからそう遠くないころの出来事だ。

カザネは私が両親を探すことを反対しなかったし、
両親がみつかることを心から願ってくれた。
しかし、結局その手がかりすら見つけることが出来ず、
それでも尚、わずかな何かが見つかることを期待して、
ウルダハの町へ出向くついでに、というのも大きい。

そのころのウルダハはかなりの混乱の最中にあった。
なにせ、ギルの貨幣価値すら変動を繰り返し、
売り物が二束三文で買い叩かれることもしばし、
それでも、できる限りいいものを、手ごろな値段で、という
父から学んだ商売の方針を守って続けていくうちに、
少しずつ固定のお客もつくようになった。

あの少女が目覚めたのはそのころのことだった。
少女は霊災の影響か、自分が誰なのかすら思い出すことができない状態だった。
カザネと私、カザネがその少女の見た目からルビーと仮に名づけた少女との暮らしが続く。

それは、…決して全てがいいことばかりじゃなかった。
けれど、幼いころからずっとすごしてきたなかでも、生きている充足感を最も感じられる日々だった。

あれは、いつだったか。
私の生まれの話をしたときだったような気がする。

カザネに訊ねたんだ、
「カザネはどこからきたの?」…と。

覚えている。
…彼は、とても悲しそうな顔をして、
「“いつか帰る場所”から、かな。」
そう、答えたのだ。

思えば、それが幸せな時間の終わりが始まった瞬間だったのかもしれない。
そのころから、カザネは少しずつ、私たちと距離を置くようになった。

カザネがはじめた商売は、カザネという生産者がいなくても
なんとか軌道に乗せることができるようになり、
裁縫、彫金、一通りの技術を学ぶことで、安値で素材を買って、それを加工して販売することもできるようになった。
ウルダハに店を持つ…というのはさすがに無理だったが、
露天商としてはそこそこの安定した収益を得るに至った。

カザネに、少しでもお礼がしたくて、
ルビーと二人、さまざまな店舗を見て回り、いちばんいいと思った剣を一振り、
ちょっとだけ自分たちには高級な品物だったが買い揃え、
それをカザネにプレゼントした。
ウルダハの武器職人が鋳造したなかでもとびきり上等なアイアンスパタ。

カザネはそれをとても喜んで、そして、私たちに告げた。
『もう自分がいなくても、二人ならやっていけるね』と。

ルビーはそれを止めようとしたが、私にはできなかった。
あの日、カザネが見せた悲しそうな表情を覚えているから。

彼はいった、
「どうやって帰ればいいのか、自分でもわからない迷子なんだよ」と。

だから、いつか帰る場所へと向かって、どこまでも、どこまでも旅を続けるのだ、と。

そんなカザネを止めることが、自分にはできなかった。

最後に、カザネに一つだけ頼んだのだ。
自分がこれから商売を続ける、その屋号を決めて欲しい、と。

カザネは口にした。
そんなの決まってるじゃないか、と。

「君の、君だけの店、黒猫屋。きっと君はいつかウルダハでも随一の商人になることを祈ってるよ」と。

ク・ロネコとルビーの店、黒猫屋はウルダハの片隅で、今日もまた営業を続けている。
旅立ったカザネの元に、自分たちの名声が届くように、と。




「お姉ちゃん、私、冒険者になる。」

ルビーがそんなことを言い出したのは、カザネが旅立ってからどれぐらいしたときのことだったろう。

「ルビーちゃんに冒険者は無理じゃないかな…。」
「そんなことない、…いつか、追いつくの。」


カザネ、彼はいまごろどこで何をしているのだろうか。
この国から旅立ったのであれば、おそらくは次はグリダニアにいったことだろう。

北のイシュガルドは門戸を閉ざして久しい。

船旅でラノシアへと渡り、そこから船で外洋に出たかもしれない。

しかし、どこにいようと、彼が自分の恩人で、
そして、いつか彼にこの恩を返す日々が来ることは忘れてはいない。

ルビーもおそらく同じなのだろう。
私が商人としてできることをする、彼女は彼女で、できることをしたいのだろう。

「というわけで、呪術士ギルドに行ってきます!」
「はいはい、…夕飯までには帰ってくるのよ。」
「遊びじゃないんだよ、本気だよ!」
「本気でもなんでも、『いつか帰る場所』は必要でしょ。あなたのそれは、ここ以外のどこだっていうの。」

今なら言える。
本当なら、彼にとってのいつか帰る場所が、
自分のいるここになってくれたら、と思ったことは一度ではない。
だけど、結局自分にはその器がなかったのだと思う。

旅立った先で、彼はきっと、また誰かの手助けをして、
そして、きっとまたいつか旅立つのだろう。

その繰り返しを続ける彼に祈るのは、
いつか帰る場所へとたどり着けることなのか、
それとも、いつか帰る場所に変わる場所を見つけることなのか、

ウルダハから一歩外に出て、満天の星空を眺めながら、そんなことを考える。

忘れないで欲しい、
ここにも、帰ってこれる場所はあるのだということを。

日は昇り、日は沈み、月は昇り、月は沈む。

どれだけ時間が流れようとも、忘れられない人たちがいる。

伸ばした手の先でつかめなかった両親も、
そして、私を置いていったカザネも、
いままた旅立とうとしているルビーも。

私の伸ばした手をカザネが救ってくれたように、
いつか、今度は自分が誰かの救いになれるように…。

そんなことを願いつつ、
ウルダハの片隅で、黒猫屋は今日も商売を続けるのだった。




Kommentare (3)

Fiolia Titania

Gungnir [Elemental]

カザネの過去が垣間見れた話でしたね

さて、黒猫屋は本編に出てくるのか?
ルビーはカザネに会いに来るのか?

なんか楽しみだw

Raphi Ff

Valefor [Meteor]

自分を助けてくれたコトを
今度は自分が誰かを助けたいとするコトを
とても素敵な話ですね^^

このエオルでは誰かに助けられたり助けたり
そういった繋がりに心が温まります
みんながこんな気持ちでいられたら良いなって思いますね^^

Chieri Serenade

Bahamut [Gaia]

コメントありがとうございますー

ちょっとエーヴェルのお話に詰まったので気分直しに
以前書いた作品の一部を大幅に加筆して再筆した作品です。


とりあえず、あと2つの話が第一部で書ききれてないお話として存在してて、
それを消化してから第一部の結末に行くか、
それとも、拡張前のこのタイミングで結末だけまとめておいて、
そのあとまとまった時間が取れるときにまた継ぎ足していくか、を迷ってるところです。
Kommentar verfassen

Community-Pinnwand

Neueste Aktivitäten

Die Anzahl der anzuzeigenden Einträge kann verringert werden.
※ Aktivitäten, die Ranglisten betreffen, werden auf allen Welten geteilt.
※ Aktivitäten zur Grüdung von PvP-Teams können nicht nach Sprache gefiltert werden.
※ Aktivitäten deiner Freien Gesellschaft können nicht nach Sprache gefiltert werden.

Nach Art des Eintrags sortiert
Datenzentrum / Stammwelt
Sprache
Anzahl