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現実世界を物語世界に転写する難しさ

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現実世界を物語世界に転写する難しさ
~『Final Fantasy XIV』「紅蓮のリベレーター」ドマ篇の問題点~


 前回、「蒼天のイシュガルド」と「紅蓮のリベレーター」に関する肯定的な感想記事を書いた。だが、その末尾でも述べたように「紅蓮のリベレーター」については手放しで賞賛できない点が一つある。どうしてもその一点が気になったので、それについても記事を残しておこうと思う。


 『Final Fantasy XIV』(以下『FF14』)の中心的な舞台となるエオルゼアは、現実世界の様々な文化圏をモデルとしつつも、現実世界の地域や文化との一対一対応を避けた世界作りがなされている。例えばウルダハは砂漠の中の都市で、その建築様式もどことなく中近東風の趣があるが、だからといってウルダハに住む人々やその社会の様相が中近東的であるかというと、そうではない。

 同様のことが他の都市国家にも言える。グリダニアは『指輪物語』のエルフの暮らしをモデルとした面があるだろうし、リムサ・ロミンサは大航海時代のヨーロッパやカリブ海の海賊を参考にしたと言えるだろうが、プレイ中にそれを強く感じさせるポイントは多くない。どちらも参照先の物語や歴史とは異なる側面を多分に含んでいるからだ。エレゼン族はエルフに似た外見だが不死でもないし、他種族より思慮深い存在でもない。リムサ・ロミンサにはエンリケ航海王子のようなパトロンはおらず、飽くまで海賊達による自治によって成り立つ都市国家である。イシュガルドは明確に中世ヨーロッパ風の国だが、雲海というヨーロッパからは大きく逸脱した要素も備えている。

 それに加えて、エオルゼアには様々な人種の人々が暮らしているという設定だ。国や地域ごとに傾向はあるものの、どの国でも複数の人種が共存している様子が直感的に分かるようになっているし、人名の多様さからは種族ごとに固有の言語が保たれていることも窺える。


 要するに、エオルゼア諸国は一つだけのモデルに頼りきりにならないよう、かなり工夫されて設定が作られているのだと言って良いだろう。グリダニアを初めて訪れたプレイヤーは『指輪物語』のエルフを想起するかもしれないが、そっくりそのままではない。イシュガルドの街を見たプレイヤーは、中世ヨーロッパ風だと直感しながらも、街の造りが地球上のどことも圧倒的に異なることを経験する。その上、画面を行き来する人々の姿は多種多様である。

 エオルゼアは現実世界の歴史に名を連ねる多くの国や地域と違い、圧倒的に多文化共生圏的な世界であると表現することで、更にモデルの存在を朧化することに成功している。



 一方で、ひんがしの国やドマ・ヤンサ(・ナグサ)はそれとは異なり、明確に現実の東アジアの諸地域をモデルとしている。ひんがしの国〜紅玉海は日本、ドマは日本〜中国、ヤンサはモンゴルをモデルとしている。ナグサはそれと分かる形で登場していないものの、服装から推察するに中国〜ベトナムをモデルとしているようだ。参照先の文化や世界観を架空世界に転写させる際の手法が、エオルゼアとは大きく違っている。

 オサード小大陸の諸地域は、現実の文化圏を一対一対応で架空世界に当て込む形で作られている。そのこと自体はリスクこそあれ良くある手法なので何とも思わないが、今回は特に、製作者の多くがの所属する国・地域・文化圏である「日本」的要素だけが、やたらと肥大してしまっているのが目についた。


 具体的に言うと、ドマを「中国的な文化圏」ではなく「日本〜中国的な文化圏」として描いた結果、そもそも日本的に描かれていたクガネや紅玉海と合わせると、全体として日本的な要素がやたらと増えてしまっていて、中国的な要素が限定的にしか描かれない結果となっていることが上げられる。現実世界の中国をモデルとする文化圏を設定しておきながら、それを日本文化混じりに描くというのは、日本と他の東アジアの諸地域との歴史に対して不誠実な表現であると私は感じた。


 ドマという国の中に転写された、中国的なものと日本的なものは、エオルゼアの中に見出される朧化されたモデルとは異なり、明らかにそれと分かる形をしている。例えば「紅蓮のリベレーター」で実装されたジョブである忍者も侍も、日本的なものであって中国的なものではない。ドマの人々の人名はどれも日本語風の言葉選びと様式をしていて、中国的な姓名を名乗る人は見当たらない。

 世界を形成する諸要素が「日本的なもの」なのか「中国的なもの」なのか容易に区別することが可能だし、加えてこの二者の比率は半々ではない。ひんがしの国を日本として描き、ドマは単に中国として描くというのならば問題はないのだけれど、実際はそうなっていないのである。ひんがしの国は(ネオジャポニズム風なところはあれ)シンプルに日本的な国であり、ドマは日本混じりの中国なのである。日本的なものを有する地域だけが、現実世界に比して無条件に広い。その不均衡に問題がある。


 何がどのように問題なのか。日本はかつて中国に侵略戦争をしかけたことのある国であり、朝鮮半島や台湾や中国東北部を植民地としていた国である。中国的な文化に、物語上特段の理由もなく日本的な文化を混ぜる、相互的に混じり合わせるのではなく一方的に日本的なものを混ぜ込む表現というのは、植民地における同化政策的なものを思い起こさせるし、戦前の日本において侵略戦争の思想的背景ともなったアジア主義を連想させもする。

 それが仮に製作陣の意図していない読み解きなのだとしても、すなわち無意識、不徹底、もしくは不勉強によるものだとしても(恐らくそうなのだろうが)、軽く流して良い問題ではないと私は感じた。中国のことを勉強せずに中国を描けると確信してしまうこと自体が、中国文化を軽視する態度に他ならないからだ。

 「紅蓮のリベレーター」は解放戦争を描く物語だ。現実世界の歴史で言うところの帝国主義に近しい振る舞いで他国を侵略するガレマール帝国と、それに抵抗するアラミゴやドマの人々を描いている。

 この物語のテーマから言っても、現実の歴史における帝国主義について、誰が誰をどのように侵略し、搾取したかについて、製作陣はもう少ししっかりと意識する必要があったと思う。現代の日本社会に暮らす人々は帝国主義侵略の当事者ではないし、私達が直接侵略や植民地支配の責任を負っている訳ではないが、それでもかつて日本という国とそこに帰属する人々の多くが、侵略戦争を是認し、押し進め、それによって利益を享受した歴史は存在する。

 「私達の社会は、かつて他の社会を侵略した側である」という認識から出発するのは辛いことだが、しかしその認識を曖昧なままにして民族解放戦争を描くというのは片手落ちであるように感じられる。


 かつて日本が侵略した先の国や地域を、日本語で、あるいは日本語話者が中心となって描く時、そこに無意識の帝国主義が潜んでいないかどうかは注意すべき問題だろう。今日に至るまで、日本では「世界は欧米と日本でできている」風の言説がまかり通る傾向にある。

 中国や韓国に代表される東アジアの諸地域は、日本の外延ではない。日本とは別の言語、別の歴史、別の文化を有する、別の地域なのだ。人々が個人の単位で関わり合い、混じり合う部分も多分にあったし、これからもあり続けるだろうが、それは東アジアの諸地域が日本の延長であることを意味しない。

 人々が侵略者に抗う様をいくら感動的に、説得力のある形で描けていたとしても、そこに現実の中国と日本が、かつての侵略戦争を想起させる形で投影されてしまっていたら、その説得力はたちどころに霧散してしまう。



 「紅蓮のリベレーター」の物語について肯定したい気持ちも大変強いのだが、その一方で私にとっては、「侵略戦争とそれへの抵抗を描いているのに、制作者達は自らの中にある侵略する側マインドに気付いていない」というグロテスクな印象を覚えるゲームでもあった。少なくとも、そういう側面があった。


 「蒼天のイシュガルド」と「紅蓮のリベレーター」は、「戦争」という人類が繰り返してきた悲しい営みの謎を、全く別々の視点から追いかける物語になっていると思う。「紅蓮のリベレーター」は結果的に、「戦争とは何なのか?」という問いに一つの答えを出した作品でもあるだろう。

 私はそういう意味で、この物語をとても高く評価したいと感じている。「紅蓮のリベレーター凄いじゃん!」と本当は手放しで褒めたいのである。
 素晴らしい物語だと思うからこそ、心揺さぶられて感動したからこそ、とにかくドマ周辺の描き方に根深い問題を感じて、残念に思った。
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