「それで逃げ出してきたのか?」
部室から出たその足で、再び職員室に来たわしらに、昔からおる新聞部顧問は苦笑を浮かべた
いや、違いますよ、と言う友人の言葉は、視線が泳いでおることもあっていかにも白々しいが、実際逃げてきたという訳でもない
少し聞きたいことがあって、とわしは本題を切り出す
「この怪談に関わった生徒に起こったこと、できるだけ詳しく教えてもらってもいいですか」
印をつけた見取り図を見せるわしに、先生は周囲に他に誰もいないのを確認すると、まぁ、お前らなら言いふらしたりしないか、とため息混じりじゃったが話してくれた
最初に「それ」が目撃されたのはPCルームでのことじゃ
授業が終わって、PCの電源を落とそうとした時、1人の生徒が画面に何かおかしなものが映りこんでいたと騒ぎ始めたらしい
担任の先生が確認してみたが、何もなかったので、その時は気のせいじゃろうということになったのじゃが・・・
それからじゃ、その生徒が行く先々で窓や鏡におかしなものが見るようになったのは
最初は学校の中だけじゃったそうじゃが、次第に学校の外、しまいには家の中でも見えるようになっていったそうじゃ
反射面に映る「それ」は徐々に徐々に、その者の傍へと近づいて来て
その者が自分の部屋から出てこなくなる直前には、触れる寸前まで距離をつめていたそうじゃ
「今は部屋の窓に布を張って、鏡や移りこむ可能性のあるものは全部、部屋の外に出して閉じこもってるらしい」
わしと一緒に静かに話を聞いておった2人じゃが、そこまで聞いた頃には青ざめた顔をしておった
「わたしの友達も階段から落ちる前の日にそんなことを言ってました・・・鏡によく分からないものが映って、それから鏡を見れないって・・・」
そう言うて震える彼女の様子は無理もないが、気になるのはわしの友人の態度じゃ
何をそんなに怯えておる
「あ、あのさ」
不安に思ったわしが理由を尋ねる前に、友人の方から口を開いた
「気のせいだと思ったんだけど、さっき、ここに来る途中」
見たかも知れない、と
演劇部の部長に車で迎えに来てもらい、その日はそのまま部長の家に一緒に泊まることにした
友人の実家に送り届けてもよかったのやも知れぬが、子供の怪談好きに普段から呆れておった親に、事情を説明して納得してもらうのは難しそうじゃったからの
「お~し、おっけ~、入っていいよ~」
玄関まで呼びに来た部長に招かれて、わしらは部屋に入った
窓にはカーテン、鏡その他映り込みがありそうなものは全て片付けられ、PCやテレビ画面には布のカバーがかけられておった
すみません、という友人に、いいからいいから、と部長は鷹揚に応えてぱたぱたと手を振る
「私も行けって言った責任があるからさ・・・まぁ、しかしそれにしてもどうしたものかねぇ」
何か考えはある? と視線で問いかけてくる部長に、わしはまだ調べてもらってる途中ですけど、と前置きして
「おかしなことが起こり始めたのがだいたい1ヶ月前からなんですけど、その少し前に西棟の改修工事があったみたいなので、そこで何かあったんじゃないかなと」
PCルームにも同時期に新しいPCが何台か入ってるようなので、もしかしたらそこに原因があるかも、と言うわしに、じゃが、部長は、ん? と首をかしげた
「PCは関係ないんじゃない?」
え? 何でです、と問いかけるわしに部長は、だって、と当たり前のことを言うかのように
「最初の1つだけでしょ? PCが関係してるのって。その話にしたって、その後は窓とか鏡とかに映るっていうし。PC関係の霊とかなら1回だけっていうのは変じゃない?」
ふむ、とわしは考え込む。部長の言うとおりPCを除外してよいのなら、残るは窓、水面・・・鏡? 反射するようなものは他に何があったじゃろうか
しばらく考えて、思い出したものがあった。話の内容はだいぶ異なるが、西棟、鏡、に関する怪談。そしてもう1つ・・・
何かあったら連絡ください、と渡されておった新聞部の後輩にメールを送るとすぐさま返事が来た
文面からも動揺が伝わってくる後輩に、とりあえずまだ何もおかしなことは起こっておらぬことを告げ、いくつかのやり取りを交わす
どうだった、と聞いてくる友人と部長に事情を伝え
「それで、ちょっと用意して欲しいものがあるんですけど」
わしの頼みに、部長は二つ返事で快諾してくれた
次の日、わしらは放課後再び高校を訪れた
「ほんとにやるの?」
友人は気が進まぬようじゃったが、後輩に、わたしも手伝いますから頑張りましょう! と言われ観念したようじゃった
一連のおかしなことの原因、と思われるのは西棟2階、美術室の大鏡じゃった
夕暮れにその鏡をのぞくと、鏡の中の自分が手招きしてきて、近づくと鏡の中に引きずり込まれる、という怪談が昔から伝わっておったのじゃが、その鏡が先の改修工事の際、誤って割れてしもうたそうじゃ
「・・・割れた時に中にいた何かが出てきたってことですか・・・?」
不安そうに言う後輩に、あくまで可能性の話だけどね、と前置きして
「もしそうなら、今からする方法が効果あるんじゃないかな、と。まぁ、これもやっぱり可能性の話だけど」
それでも何もしないよりはましじゃない? と言うわしに、後輩は力強く、そして友人も渋々といった感じでうなずいた
「さて、じゃあはじめましょうか」
西棟4階、屋上へと続く階段手前の踊り場で、わしら3人は腰をおろした
傾きかけた日の光が、窓から赤く差し込んできておった
学校に相当前から伝わっておる話で、「怪談送り」と呼ばれるものがある
屋上へ出る階段の1つ前の踊り場で、怪異についての話を語る、というもので
1階から4階までの段数に1つ足した数だけ語ると、憑いていたものが離れ、屋上から外へ出て行く、と
途中で絶対に止めてはいけない、とか、自分たちがおる場所に「来た」時ちょうど話しておった怪談が実際に起こる、という話もあるが
「そこは実害のなさそうなでたらめな話をお願い」
そう冗談めかして言って、わしらは怪談を語りだした
(その3へ続く、のじゃ)
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