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旅人センと果ての光明

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火に照らされた廊下があかあかと光っている。
唸るような警報が、鳴っては轟音にかき消されて絶えていく。
どん、と腹の底まで響く低い音。突き上げられるように揺れて、センは転がり落ちないように魔導アーマーにしがみついた。
シドあたりがここにいれば、どこの何がどう壊れて、どこへ行けばより安全か教えてくれたろうが、生憎と、彼はほかの仲間と一緒に脱出済みだ。
代わりに、復帰を果たした魔導アーマーが、センとサンクレッドを運んでくれている。
握りこんだ操縦桿は、もはや操縦桿とは言えない。この魔導アーマーは意志を持ち、操作せずとも動いている。
それがよくあることなのかセンにはわからず、この魔導アーマーが自身の命綱であることだけを理解していた。

何かが後ろで動く度、空気がかき回される度、熱波が背を炙っていく。
肉の焦げるにおいを嗅いだのも一度や二度ではなかったし、その度にセンは、自分の背に痛みがないことを確かめた。
確かめることが、無駄だとは思わなかった。薬はまだ残っているし、傷に気づけばすぐに使うつもりだった。
もっとも、使う暇が与えてもらえるかも、やはりわからない。

また、大きな音。
紛れて微かに、人の声がした。
誰かがこの建物の中で焼けている。
帝国の兵士だから良いだとか、人命は救われるべきだとか。そんなことの一つすら、センの頭には浮かばない。

あれと同じになりたくない。

気は急くのに、センにできる事はない。
ただ、もっと早く、急げと魔導アーマーを急き立てるだけ。この機械には、おそらく言葉が通じるのだ。挨拶をすれば動き出したし、今だって、センが口を開けば速度が上がっている、気がする。

「私は、……死なない」

食いしばった歯の隙間から、恐怖よりも、背を焼く炎よりも熱い吐息が漏れる。
強大な敵に相対した時の、頭の芯が凍りつき冴えていくような
突き抜けた恐怖が高揚をもたらすような、かと思えば、全てが夢だったような気さえする。

夢にできるならどこからを夢にしよう。

こんな危険なところに、言われるままに乗り込んだこと?
英雄なんて呼ばれ、分不相応な扱いを受け始めたこと?
超える力を得たこと?
ここへ来たこと、冒険者になったこと……

否。
そのどれも、夢にはならないとセンは知っている。

やり直すならもっと最初であるべきだった。
死ぬ機会は無数にあったのだ。
ここで死ぬくらいなら、もっと早く死んでいてよかったのに
さして強靭な体にも生まれなかったこの身が、飢えも疫病もかわして生き延びた、その理由を、考えることに意味はない。
生き延びた事実がある。
生きているのだから、この先も、まだずっと生き続けなくてはならないという、確信。

「絶対に、死なない……」

生死のあわい。
ふたつがぎりぎりに近付いて、その間に潰されぬよう、間違っても死へ傾かないよう走る道行きの中、
眩暈に満たされた頭が、その果てを見る。
炎があった。雪がちらついていた。かと思えばそれは花弁で、己の血で、放り投げた短刀であって、放った矢であって、誰かの声であって、
黒ずんで痩せた、骨と皮ばかりの腕でもあった。
その中に

「……ああ、」

光明を見る。

苦しいばかりの光景が、身震いするほど美しかったことを知る。
溢れた熱いものが目からこぼれて、頬を伝って落ちていく。

それこそ夢だったのかもしれない。
炎に炙られた空気が、悪くなった空気が肺を焼いて生んだ幻だったのかも。
今にも死ぬかもしれないのに、天井が落ちてこれば、魔導アーマーが気まぐれを起こせば全てが終わってしまうのに、
あまりに脆い生命ひとつを抱え、彼女は生の光を見た。

高山の頂上で見る日の出のように、地の底の湧水のように、
美しいものは、果てにこそあるのだと。

センは、光に向かって走った。
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