※これは、大迷宮バハムートを題材に、自機の心境などを小説形式で綴った、二次創作小説となります。
注意書きとして一度
こちらに目を通して頂ければ幸いです。
また、当然ながら大迷宮バハムートのネタバレを含みます。
――――――――――――――
その男は、かつてカルテノー平原に居た。
仲間と共に、名声を手にすべく、迫り来る帝国兵の群れにも恐れず戦った。
だが、天より降りし赤き衛星が弾けた、その瞬間――
何もかもが、光に焼かれた。
男は、辛くも惨劇を生き延びた。
しかし、生き残った男には何一つ残されてはいなかった。
記憶は虫に食われた本のように所々が焼け落ち、手は戦いの経験を忘れた。
無二の仲間達はもういない。
確かに居たという記憶はあるのに。共に旅をしたことは覚えているのに。
彼らの顔も、名前も、思い出すことができなかった。
夢幻のようになってしまった仲間達の記憶を、それだけでも手放すまいと、傷の苦痛に呻きながら、男は繰り返し繰り返し思い返した。
そして、嘆いた。
何故、自分だけが生き残ったのかと。
◇◇◇
ガイウス率いる帝国軍を退け、三国の盟主達が第七星暦を宣言してから、しばらく後。
砂の家も移転が行われ、アルフィノが新たな組織の立ち上げに奔走している。
そんな中、大分静かになった砂の家を訪ねたヒュブリスは、ウリエンジェから話をもたらされる。それは、あの日、盟主達の宣言の場で聞いた、未知の蛮神の咆哮を発端とするものであった。
彼の言いつけに従い、ワインポートに向かった先で待っていたのは、アルフィノによく似た少女だった。
アリゼー。彼女のことは、ヒュブリスも覚えていた。今は懐かしい、カルテノー戦没者追悼式典にて、兄のアルフィノと共に巡っていた。ほとんど言葉を交わさなかったこともあり、印象はそれだけに限るが。
その彼女から「第七霊災を引き起こしたメテオの痕跡を調査したい」と言われた時、ヒュブリスは雷撃魔法をくらったような衝撃を受けた。
アリゼーは語る。祖父であり賢人のルイゾワ・ルヴェユールが、5年前に行った『神降ろし』を行い、落下する衛星ダラガブを止めようとしたこと。そして、ダラガブから生まれた古の蛮神『バハムート』と共に、光の中へと消えてしまったこと。
「私は、真実を知りたいの。お祖父様の行方や、世界の新生に秘められた謎……第七霊災の隠された真実を、必ず見つけてみせる」
彼女がそう誓った時、ヒュブリスもまた心を決めていた。
自分の剣になる覚悟はあるか、と問われた時、彼は答えた。
「わかった。私がお前の剣となろう。その代わり……新生の真実を、私にも見せておくれ」
そんな彼を、アリゼーはさすがは英雄だと讃え、今、政治に奔走する兄のことを暗に詰った。
かくして、ヒュブリスは古き因縁へ繋がる地へと、足を踏み入れることとなった。
地下深くへ潜り、そこで目にしたものは――光と共に脳裏に焼き付いた、黒き竜の翼だった。
アラグの機構によって複雑に入り組んだ領域は、迷宮と呼んで差し支えない有り様だった。
その末に辿り着いたのは『バハムートの掌』であり、かの竜が蛮神でありながら消えずに肉体を残していることを、如実に物語っていた。
巨大な竜の掌の上で、首に拘束具をつけられた竜と戦った。
その後に辿り着いた場所で、二人は目にする。アラグの装置に繋がれた、巨大な竜の貌を。
この景色を認められないと、バハムートが生きてるのなら、祖父様の死にどんな意味があったのかと嘆くアリゼー。
その彼女の眼前に、更に驚愕の光景が繰り広げられる。
なんと、死んだと思われたルイゾワの姿がそこにあった。
ところが、そこに孫娘がいるというのに、彼はこちらを一瞥しただけで背を向け去ってゆく。
多くの謎と未練を引き連れながら、二人は一度、地上へ戻ることとなった。
この時、アリゼーは祖父が生きていたのだと考えていた。
砂の家に戻り、ウリエンジェと情報を共有したところ、あのバハムートの首があった場所こそ、カルテノー平原の地下だったと判明した。
バハムートは消滅しておらず、地下で時間をかけて再生し、いつの日か地上に舞い戻らんとしている。
そう結論付けられた時、ヒュブリスは自然と拳に力を込めていた。よもや、あの黒き竜が生きていようとは。
一方、アリゼーは祖父のことに執心なようだった。祖父が生きているのは、再生するバハムートを抑え込むためだと考え、助け出す為にもこの大迷宮の調査を続行すべきだと言い切った。
これから先も貴方の力が必要になる、と言うアリゼーに、ヒュブリスは頷いた。
◇◇◇
アリゼーは、バハムートを再生させていた巨大なアラグの機構を『拘束艦』と呼称することにした。この拘束艦こそが、バハムートを生かし、果ては再生させているのだと推測した。
かのアラグ文明は、ダラガブを太陽の力を集積する為の装置として作り、その核として用いたのがバハムートだったという。
いずれにせよ、拘束艦を全て停止させることができれば、バハムートは姿を維持できなくなり、今まで倒してきた蛮神同様に消滅する。ここからは、それが目的となる。
あのバハムートを消し去ることができる。それは、ヒュブリスにとっても、願ってもない機会だった。その為ならば、地上のどこであろうと、どれだけ深く地下に潜ろうと構わない。
そんな思惑と共に、今回向かったのはフォールゴウドだった。
北部森林に落下したダラガブ片より、拘束艦への侵攻を試みる。これが今回の任務だった。
ダラガブ片への突入前、思いがけずアルフィノの方と出くわした。
彼は彼なりにアリゼーのことを心配しているようだった。祖父を慕うあまり無茶をしがちな彼女のことを。
「しかし、頑なな想いは時に諸刃の剣と化す……闇雲に祖父を追いかけているだけでは、彼女自身がバハムートに魅入られる可能性すらあろう」
ヒュブリスは眉を顰めた。憎む相手に魅入られるとは、どういうことだろうか。
「彼女には、戦う意味が必要なのさ。この世界の為に何を目指し、何を賭すのか……いずれ、その為の大きな決断を迫られる。ルイゾワではない、アリゼーによる決断をね」
そうして、アルフィノは言い切った。
「祖父はもう、いないのだから」
アルフィノは、使いの者に、自分がここに来たことは内緒にするよう言いつけて去って行った。
ヒュブリスは、彼の言い分に含みを感じていた。彼は彼なりに何らかの答えを得ているのではないか。そう思いつつ、二人の兄妹仲を省みて口を噤んだ。
ヒュブリスにしてみれば、アルフィノもアリゼーも懸命に戦っていて立派だ。まだ若いのに、エオルゼアの未来を担おうと必死で躍起になっている。微笑ましくもあり、また気がかりでもある。
だが、今、目を向けるべきは件の黒竜であれば、その心境はどちらかと言えばアリゼーの方を慮っていた。
(私とて、“彼ら”が生きていたらば同じようにしただろう)
やがて、追いついたアリゼーと共に、ヒュブリスは次の任地へと足を踏み入れた。
かくして、辿り着いた先に待っていたのは、白銀の凶鳥――ネールだった。
帝国の手の者とあっては、ヒュブリスの斧を構える手にも力が籠る。
ダラガブを落としたのも、また帝国。この地は、つくづく因縁と通じている。
ネールは、その心を既にバハムートに蝕まれていた。忠実なる下僕を自称し、バハムートを讃えるその姿は、正気とは程遠かった。
しかし、竜と融合したかのような姿となった時、その力は強大で、かなりの苦戦を強いられた。
辛くも彼女を撃破した時、真実の一つが紐解かれる。
ネールは、やはり『死んでいた』のだ。霊災の折、肉体を失い、エーテルとなった彼女はバハムートに囚われ、エーテルのまま生かされていたのだ。テンパードとして。
今わの際に正気を取り戻した彼女に、アリゼーは真実を問う。
「小娘よ、知りたければ進め……その方の欲する真実は、大迷宮の果てにある。だが、それは絶望へ至る道……真実こそが、残酷なのだ」
「どういうこと……? 蛮神バハムートの復活を阻止すれば、お祖父様も助かる……そうではないの!?」
「……覚悟せよ。志が砕ければ進むにあたわず、力なくば生きるにあたわず……先を拓くは、ただ、穢れなき強さのみ」
これが、彼女からの答えだった。
直後、彼女は何者かの放った光の槍に貫かれ、今度こそ果てた。
どうあれ、アリゼーとヒュブリスは拘束艦の制御部へと辿り着いた。
そこから見えるバハムートの姿は、思いの外、再生が進んでいる様子だった。
この時、アリゼーは抱えていた不安を口にした。バハムートの力を纏ったネールと対峙した時、英雄と謳われたヒュブリスでさえ勝てないかもしれないと思ったらしい。
確かにネールは強かった。幾度か“その時”を覚悟もした。それでも、勝ってみせたヒュブリスに、アリゼーは笑いかける。
「……人は強いのね。そして、とても尊い可能性を持っている。お祖父様が守りたかったものは、きっとこれなんだわ。私にも、少しだけ、わかったような気がする」
拘束艦の制御盤に手を翳し、停止に成功した後、地上へ戻ろうとした矢先のことだった。
突如、飛んできた魔法弾がアリゼーを襲う。放ったのは……あろうことか、祖父ルイゾワだった。
困惑するアリゼーに、彼は冷たく言い放つ。
「ここまでじゃ、アリゼー。これ以上、拘束艦に干渉することは許されん……聞けぬというのであれば、ここで始末するまでじゃ」
ヒュブリスはアリゼーを庇うように間に立つと、目の前の老人を睨んだ。
「貴様……本当に、血を分けた孫娘を手にかけるつもりか!?」
思わず口をついて出た声には怒りが滲んでいた。
どうして、と問うアリゼーに、ルイゾワは答える。
「覚えておくがよい。全ては大いなる意思が為……我が神、バハムートこそが絶対であると!」
その瞳は、テンパードにされたネールと同じ赤い光に煌めいていた。
「慈悲だ、去れ。再びこの地に踏み入るようであれば、次はおぬしとて容赦はせん」
言い残し、ルイゾワは転送魔法の光と共に消え失せた。
アリゼーには、わかっていた。祖父もまた、ネールと同じようにテンパードにされ、その為に生かされていたことに。
彼女の頬を一筋の涙が伝う。
「お祖父様はもういないわ。あれは、お祖父様を穢すただの幻影……だったら私は、全力であいつを叩き潰す! そして、お祖父様の魂を、バハムートの支配から解放してみせる……ッ!」
背後でなおも再生を続けるバハムートを仰ぎ見る。
「私の愛するお祖父様を取り込んだお前を、絶対に許さない! 絶対に、絶対にッ!」
涙で濡れた瞳を怒りで燃やす少女を、ヒュブリスは痛ましい面持ちで見ていた。
砂の家に帰還し、ウリエンジェへ報告を済ませると、彼はアリゼーの心境を慮り、もう協力を望むべきではないとまで言い出した。
それを断ったのは、他でもない、アリゼー本人だった。
気丈に情報を整理し、気になる点を洗い出し、目的を確認する。それが、祖父をも完全に消し去ることになるとしても、彼女に迷いはないようだった。
◇◇◇
ところが、次の調査は難航することとなる。
残り2つの拘束艦に繋がるダラガブ片に、突入口が見つからないというのだ。
ヒュブリスは、アリゼーと共に目標としているダラガブ片の視察に向かうこととなった。
ひとつは、東ザナラーンのバーニングウォール。もうひとつは、モードゥナの唄う裂谷。どちらも訪ねてみたが、依然として突入口となる場所は見つかっていないようだった。
ここで、ウリエンジェから連絡が入る。なんと突入の方法が見つかったというのだ。
呼び出されたのは北ザナラーンの青燐精製所だった。
アリゼーは、まずこの地には突入できるようなダラガブ片はないと疑問を口にするが、ウリエンジェは、拘束艦から地上に戻る際、必ずこの地に転送されてきていたことを指摘する。
そこから、この地にある『ダラガブの爪』と、拘束艦がエーテルの奔流で繋がっていることが導き出された。逆から辿れば拘束艦に辿り着けるかもしれないということだ。
ウリエンジェは先立ってこちらの調査をしており、シャーレアンの転送技術を用いて簡易転送網を用意することができたと告げる。
突破口が見つかったとあって喜んだアリゼーだったが、ここで疑問を口にする。ここまで段取りが進んでいるのなら、ずいぶん前に思いついていたはずなのに、なぜ黙っていたのかと。
それでも、入口が見つかったことに変わりはない。アリゼーはさっそく現地に向かった。
そこでは、転送網の調整が着々と行われていた。
そして、意外な人物と出くわすこととなる。
「アルフィノ……! あなた、どうしてここに……!」
アリゼーは驚いたが、そもそも転送を利用した拘束艦への突入は、アルフィノの提案だった。
アルフィノは、アリゼーがいまだに祖父の姿を追いかけていることを、自分の意思ではないと指摘した。
その上で、バハムートの復活阻止と、その為にテンパードと化したルイゾワを討つことに異論はないと告げる。
「ただし、今回の調査には、私も同行させてくれないか。ルヴェユール家の子息として、結末を見届ける権利はあるはずだ」
これには、アリゼーも頷いて了承した。余計な手出しは無用と、釘は刺していたが。
かくして、双方を連れ、ヒュブリスは拘束艦を目指すこととなる。
転送網の準備が整うまでの間。
「アリゼー。時間があるというのなら、今しばし、私の話を聞いてはくれるか」
珍しい、向こうからの申し出に、アリゼーは驚きつつも、素直に頷いた。
「私は、カルテノー平原での生き残りだ」
ヒュブリスが語ったのは、己の過去だった。
かつて、カルテノー平原で帝国軍とぶつかった冒険者部隊の中に、自分もいたこと。仲間と共に戦っていたこと。
その仲間を、霊災――バハムートによって失ったこと。
「私にとっても、バハムートは仇だ。だから、何があっても最後まで戦おう」
英雄の思ってもみない過去に、アリゼーは驚いていたが、最後には決意の籠った顔で応えてくれた。
「話してくれて、ありがとう。この作戦、絶対に成功させましょう」
◇◇◇
エーテルの奔流を抜けて潜った先は、異様な光景を呈していた。
無数の巨大な尖った容器のようなものが、通路以外を埋めている。最初は、キメラを保存する装置ではないかと推測されたが、最奥で大型のキメラと対峙した部屋は、周囲がドラゴン族の入った容器で満たされていた。
ここで、アリゼーは確信する。
バハムートとは、メラシディアのドラゴン族によって召喚された蛮神で、このドラゴン族達こそがバハムートを維持するテンパードであったのだ。
アリゼーは言う。バハムートの復活を完全に阻止するには、全てのテンパードを排除するほかないと。
拘束艦はこのテンパード達の生命維持も兼ねていると見て、彼女は先を急いだ。
次に辿り着いたのは、湾曲した赤い壁で囲まれた、まるでダラガブの内側のような空間だった。
アリゼーは、これを壊れる前のダラガブを模した区画ではないかと推察した。
そして、ダラガブに封じられていたバハムートも、数千年に渡り恨みを募らせながら、こんな光景を見続けていたのかもしれない、と思いを馳せた。
「蛮神バハムートの抱く恨みは、深くて重い。だからこそ、奴の復活は絶対に阻止しなくてはならない」
決意と共に踵を返した彼女は、しかし、絞り出すような声で言った。
「それにね……殺したいほど相手が憎いのは、こちらも同じなのよ……!」
傍らに立つヒュブリスには、彼女の気持ちが痛いほど理解できていた。
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後編へ続く