Charakter

Charakter

  • 0

【RP】【小説】「友に捧ぐ」

Öffentlich
本文には、ロールプレイ分が含まれます。


























 あっ、という間に物は壊れる。ピューターで出来たロケットの付け根が壊れてウルダハの乾いた道路に落ちる。落ちたかすかな音は地面に吸い込まれ、労働者風のハイランダーによって気付かずに踏まれていた。
 彼が去った後、さっと手を伸ばして壊れたロケットを拾い上げる。踏まれ方が悪かったのか、留め金が歪んで開かなかった。彫金師ギルドに修理を頼むには安物の品だが、こうやって壊れるとなんというか微妙に寂しい。全てはあっけなく壊れるものだ。人があっけなく死ぬように。
 ゴブレットビュートにある自宅に戻っても、替えのロケットがあるわけではない。そもそもロケットというのは何個も持つものではなく、大事な人の絵姿やら遺髪やら形見やらを入れて持ち歩くお守りのような物だ。私の品にはそんな高価な物は入っていないが、それでも替えが効くかと言えばそういうものでもない。
 いくつもの修羅場を潜ってきた、いわば戦友というべき物が、中に入っているのだ。

 酒場の端の席で爪を使ってロケットをこじ開けようとするが、爪の先が折れて血が出た以外、収穫はなかった。特に空腹でもないが適当な物を頼む。一緒にやってきたフォークの端を使って、てこの要領で何度か挑戦し、やっとのことで開く。
 中に入っているのは、紙切れ一枚。表にはトリカブトの花が拙いタッチで描かれており、裏には古ルガディン語で一つの文章が書かれている。
『友に捧ぐ』
 ただそれだけ。それだけだが、替えの効かないものであった。

 昔のことをを思い出す。そのころの私は傭兵という危険と興奮溢れるなりわいにどっぷりとはまっていた。折角入れた薬学院を飛び出して、半端な治癒の技と喧嘩由来の投擲術で戦うこと何年か。武器は主に短剣。投げればいいし、近づかれたならば刺せばいい。今でもブーツの中に、一つ隠し持っているくらいだ。
 傭兵時代の私は女であることを疎み、わざと荒くれ者の振りをしていた。年甲斐もない背伸びという奴だ。厳つい装飾が施された肩当てに、紫に染めた革鎧。安酒を浴びるように飲み、旨いと思えぬ煙草をふかし、度胸試しの危ないゲームをすることも数多。興味のない恋愛をし、乱れた逢瀬を無関心なまま、演技と共にこなしていった。
 戦場は私にとってただ広い遊戯盤であった。私は遊撃兵役の駒として、存分に人を殺し、物を壊し、時には深手を負い、それでも何とか生きていた。それについて悔やむことはない。ただ、若さゆえの無軌道さがあっただけだ。無軌道さに殺された者らにはたまったものではないが、戦場とはそういうもの。私は最初の恐怖を乗り越えた後は、戦場の熱気に呑まれていった。
 今でも夢に見る。様々な戦場を。死と隣り合わせの悦びを。そして、どうしようもない絶望を。
 カルテノー。カルテノー。どうしようもない力、足掻くこともできない定めが降ってきたあの日のことも、夢に見る。

 私の所属していた「曲がり尾の猫」傭兵団の隊長はエレゼン女で、名をグリゼリーと言った。細身のエレゼンには似つかわしくない体格と腕力の持ち主で、口の悪い者達はグリズリー(羆)と呼んでいた。団の名前はグリゼリー隊長殿が前隊長であったケチなミコッテを殺して団を乗っ取った時に改名したもの。人望の無い者はすぐにその地位を乗っ取られる。死んで痙攣した男の尾を見て、皮肉な笑みを浮かべながら新隊長殿は「曲がり尾の猫」と笑って叫んだらしい。
 私を傭兵の道に引きずり込んだのもグリゼリーで、ウルダハの安酒場で不良学生としてクダを巻いていた私が彼女に喧嘩を売ったのが全ての始まり。両者相打ちでぼこぼこになり、気付けば二人で酒場の裏にあるゴミ捨て場で酔っ払って寝ていた。
 傷んだ林檎の皮を髪の毛に混じらせた彼女は「ちょっとその腕で暴れてみないか」と言った。
 私はポポトの皮を払いながら、「儲かるなら」と答えた。
 それで決まりだった。薬学院に退学届けを出してすぐさま、用意された装備を身に着け、馬鳥に飛び乗り、砂塵の中へ。
 
 気の荒いグリゼリーは何故か私には優しかった。といっても勿論依怙贔屓をするわけではなかったのだが。
 戦場での戦い方、いい寄る相手のあしらい方、酒の飲み方、賭けカードの勝ち方。まるで、妹の出来た姉のように様々なことをこっそりと教えてくれた。お気に入りと呼ばれるほどにはあからさまではなく、しかし確かな身内への好意がそこにはあった、と今は思う。

 ある晩、グリゼリーが私に小さなロケットを見せた。見たところ精霊銀のようだ、というと、「目利きだ」と褒められ――そして、直球に物を言う彼女にしては珍しく私に謎かけをしてきた。
 曰く、――このロケットの中には何がある? 三回で当ててみたらこれをやる――と。
「恋人の遺髪か」と言うと笑い、私の恋人は戦場で、抱く相手は敵兵の死骸だ、と答える。
「誰かの肖像か」と言うと、いちいち人の顔を覚えていたらやってられない、と答える。
「誰かの名前?」
 私は問う。これが最後のチャンスであった。特にロケットが欲しいとは最初は思っていなかったのだが、私の心にある欲しがり屋の心は目の前にぶら下げられた褒賞に反射的に飛びついていた。
「惜しい。でもこれで勝負は終わりだ」
 これが答え、と太い指でグリゼリーはロケットの蓋を開ける。
 中からは一枚の古い紙が出てきた。
『友に捧ぐ』
 うろ覚えのエレゼン語の知識でようやく読んだ流麗な文字は、見慣れたグリゼリーの筆跡であった。
「友って、誰なんだい、隊長」
「君だっているはずだ。いや、これから増えるかな……。ハルオーネの加護にあぶれた奴ら、アルジクの砂が尽きた奴らだ」
 彼女は、死んだ人だ、と遠回しに言った。戦場で死んだ奴らだと。
「隊長……意外と感傷的なんだね」
 私が意外だ、という風に呟くと、いたく真面目な顔でグリゼリーは言った。
「感傷的、か。この稼業をやっていると、死体とは友達のようなものだ。身近な奴もふと気を抜いた瞬間に死ぬし、見知った相手が向こうにいて殺さざるを得ない日もある――最後のは、傭兵になって日の浅い君には、まだ経験が無いだろうけど」
 沈黙する私は戦場で目の前の羆のような女と私が相対する瞬間を思い浮かべる。彼女は私を殺した後も覚えているのだろうか、と一瞬想像し、なぜか足元から虚無に落ちていくような不安を感じた。
「私がこの稼業で知ったことは、「私達の生の後ろには数多の死者がいる」ということと……「それぞれの死者が歴史を持っている」ということだよ。だけど全部の奴らを記していくとなると、脳みその限界を超えてしまうし、心も壊れてしまう」
 グリゼリーはいくつかの戦場の名前を口にした。私がまだ見たことのない景色と、私がまだ知らない殺戮の記憶を語っているのだふと感じる。
「だから、こうやって一まとめにしたのさ。奴らを忘れないように、歴史を忘れないように、私が死体の上に立っていることを、忘れないように」
 まあ、傭兵なんてのは大概自分のどこかに墓場を持っているもんだが、と彼女は獰猛に笑った。そうでなければ、もう壊れてしまったか、とも付け加えて。
「ま、この羆にもまだ人の心がある、ってことだ」
 そうして言葉を閉めくくり、最初と同じように太い指でロケットを閉じた。
 さあ、帰った帰った、明日はまた強行軍だ、と言うグリゼリーに急かされ、天幕を追い出される。
 寝心地の悪い毛布の中で私は思ったのだった。
――なるほど、真似をしよう――、と。
 グリゼリーへの尊敬と憧れがあったのは否定しない。しかし、何よりも、誰かに忘れ去られる怖さを感じてしまったというのがあった。グリゼリーの口癖を今も時折思い出す。「死あるところに生あり、逆もまた然り」と言うものだ。あれはグリゼリーなりの祈りの作業だったのかもしれない。不特定多数の「誰か」を忘れないための。

 次の休憩で寄った町の小物屋で、私は自分に買えるだけの一番高いロケットを買い、鉄の細い鎖で首に止めた。
 中にはうろ覚えのトリカブトの絵――私の名前と同じ名の花――と、『友に捧ぐ』と書いた紙を突っ込んだ。
 グリゼリーは真似をされたのを知っていたのか、知らなかったのか。まあ、「教えたならあの子はやるんじゃないかな」位には思っていたかもしれない。

 とにかく、私達は戦場で暮らし続けた。
 面子は入れ替わりがあったが、グリゼリーの指揮が良かったのか、運に見放されていなかったのか、全滅はなかった。

 そして、他の傭兵団がそうであったようにカルテノーの戦いに赴き、やられた。
 グリゼリーは落ちてきた岩に潰されてあっさり死んだ。彼女のロケットも一緒に潰れただろう。
 全滅こそしなかったが、半壊状態。戦後の混乱で報酬も少なく――指揮官としてのカリスマを持っていたグリゼリー亡き後の団はめちゃくちゃで、やがて空中崩壊。私は時折来る悪夢と起き上がる時の心の痛み、そして治療が足りなかった故の全身の怪我の後遺症や右目の怪我に悩まされ、気付けば安酒に溺れる日々。
 ……ロケットを付けていることを、忘れていた。

 思い出したのは、リムサ・ロミンサに付いた辺りの頃。とうとう金の底が付き、何か売り払うものはないかと思って質屋に差し出した時だった。
「安物だね、しかも傷だらけだ。悪いが……1ギルにすらならないよ」
 そう言って突き返された時、唐突に流れ込むように様々な記憶がよみがえってきたのだ。酒で見ないようにしていた記憶。戦勝祝いの酒、弔いの日、興味もないまま抱いた奴らの事、強行軍のつらさ、獰猛なグリゼリーの笑み。
――奴らを忘れないように、歴史を忘れないように、私が死体の上に立っていることを、忘れないように。
 私はいつしか突っ伏して泣いていた。質屋の主人がそんなに悲しかったのかと見当違いの心配をして古い林檎を差し出して来たのもうわの空で、ただ、痛みかけた林檎の香りに初めてグリゼリーと出会った日のゴミ捨て場のことを思い出していた。
 
 ふと、酒場の端で記憶に浸りながら長いこと料理に手もつけずぼう、としていた自分に気付く。奥さんどうしたんだい、とララフェルの若者に声を掛けられる。いえ、すみません、と答えて私は料理を食べ始めた。ポケットにロケットをそっと入れて。

 数日後に知人の店に行った時、木製のロケットを見つけた。その横には木製のドングリのペンダントトップが置いてあり、二つ合わせたら良いかもしれない、と私はふと思いついた。
 ドングリの意味するところは成功と力と勇気。縁起がいい。
 悩んだ末購入する。グリゼリーのペンダントのことを思い出しながら、市場で買った精霊銀の鎖を付ける。
 そして色々な人のことを思い出しながら『友に捧ぐ』と書かれた紙を入れるのだった。
 黒髪の人、銀髪の人。白い肌に黒い肌、緑肌の者もいた。西の人、東の人、どこから来たのかも知らぬ人。様々な種族の、様々な人生を持っていた人の上に、私は立っている。
 ただ、事実があった。
 私は短く弔う。私の心の中の墓場に向けて。
Kommentare (0)
Kommentar verfassen

Community-Pinnwand

Neueste Aktivitäten

Die Anzahl der anzuzeigenden Einträge kann verringert werden.
※ Aktivitäten, die Ranglisten betreffen, werden auf allen Welten geteilt.
※ Aktivitäten zur Grüdung von PvP-Teams können nicht nach Sprache gefiltert werden.
※ Aktivitäten deiner Freien Gesellschaft können nicht nach Sprache gefiltert werden.

Nach Art des Eintrags sortiert
Datenzentrum / Stammwelt
Sprache
Anzahl